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現在007を作成中なのですが、戦闘シーンって書くの難しいですね。苦戦中です
004は冒頭で分かるのですが回想シーンです。やはり過去語りって伏線が貼りやすいのでしょうか。なんだか書きやすく感じました。まあ、ギャグ話が書きやすいってのもあるのでしょうが。
でも『筋肉マン』ネタは少し分かりづらかったかな~、とかも思ってたりしてます。
12月13日、加筆修正
004
ぼく――宿木都(やどりぎ・みやこ)が三和川ミナから向居カンナのことを聞いたのは、二ヶ月ほど前の図書倉庫でのことだった。
その日、昼休みのその場所にいたのは、図書委員であるぼくと、図書館の常連であった三和川ミナの二人だけだった。
三和川と向居は、いつも弁当を手早く食べ終えてから、昼休みの残り時間のほとんど図書館で過ごしていた。図書委員の立場から見れば、彼女たちは、いつも隅の席で黙々と本を読むか、自習をしている模範的な図書館利用者だった。二人の秘密を知ってしまった今ならば分かるのだが、もともと静かであって、そこにいる人間が、みんな音を出さないように気をつけているあの場所は、二人にとっても警戒レベルの下がる場所だったのだろう。
そんな三和川に対しての印象が変わるのに至ったのは、一度、彼女と図書館の中で口喧嘩というか、大論争を繰り広げてからだった。論争の議題については、もはや思い出したくもないのだが。
同じクラスだから分かるのだが、向居カンナは月に五、六日のペースで学校を休む。なんでも中学時代にかかった病気のせいと聞いていた。
向居が休んでいる日は、三和川はいつもより気楽そうに見えた。いつも向居を守るために気を張っていたのだろう。だから向居が学校を休んだ時は、張るものがなくなって緩んでしまうようだった。
三和川が昼休みにここ、図書倉庫を訪れるのは、向居が学校を休んだ日の、昼休みか放課後のことだった。
その日も、ぼくはカートに乗せられている未整理の本を片付けていて、三和川は端っこに置いたパイプ椅子に座っていた。
いつも会話はどちらともなく始まるものだったが、その日はぼくから三和川に話しかけていた。
「なあ、三和川」
「なにー?」
「三和川って、向居と仲がいいのか? いつも一緒にいるけど」
一緒にしかいないけど、とは言わなかった。
三和川が少し時間をおいて、質問に答えてくる。
「……うん。でもどうしたの? 向居さんのことが、気になるの?」
棚越しに聞こえてくるその声には、わずかに躊躇いが混ざっているように感じた。
やはり向居の事に関しては、警戒を抱いているのかもしれない。
だからぼくは、なるべく軽く受け取られるように言った。
「いや、そういうのじゃなくてさ。単なる疑問だよ」
「そう。……付き合いが長いからね。幼稚園の頃からなんだ」
三和川も安心したのか、普通の調子で答えてくれた。
話によると向居と三和川は、どうやら古い仲というわけらしい。
本を持って、次の棚に移動すると、三和川の姿が視界に入った。
向こうもこっちに気づいたようだったが、話はそのまま続けられた。
それにしても、それほどの付き合いならば、「向居さん」と呼んでいるのは、少し余所余所しいのではないだろうか。その年代からの友達だったら、いまだに子供っぽい呼び名で呼び合っている連中は珍しくない。いや、だからこそ恥ずかしがって、わざとそう呼ばせているということもあるのかもしれない。
ぼくは特に感想もなく、
「そうなんだ」
と言っておいた。
「あ、都ちゃん。今、“幼稚園”って単語に反応したでしょう!」
「してないよっ!」
ぼくは全力で否定する。
なぜそこに注目するんだ!
もしかしてトラップだったのか? しかもちゃんとかわしても手動で起動できる、遠隔操作のトラップだ。
乗ってきたのか、三和川がさらにそこを突っ込んできた。
「大声を出すところが逆に怪しいですな~」
「大声ぐらいで怪しまれてたら、絶叫レポーターなんてみんな廃業だよ!」
「あんなやつら全部クビになればいい」
と、三和川は吐き捨てるように言った。
何かレポーターに恨みでもあるのだろうか。
「みんな首を吊ればいい!」
「怖っ! 恨みすぎだろうがっ! いったいどんな恨みがあるんだよ、レポーターって職業に!?」
「私、昔っから音楽の授業苦手でさ。リコーダーってあったでしょ。小学校で、男の子が好きな女の子のなめるやつ」
「その認識はかなり間違っている」
そんな暗黒な小学校は嫌だ。
しかしそんなところを気にすることもなく、三和川は話を続けた。
「あれが中でも一番苦手でね。いつも居残りさせられてたの」
「へえ。音楽が苦手なんだ」
少し意外だった。そう思ったのは、人との交わり自体はあまりない三和川だったが、学校での成績はいつも上位に入る優秀ぶりだったからだ。
「意外だった? まあ完璧超人にも敗北はあるのよ」
完璧超人って自称しやがった。
自信家なのにもほどがある。
そして例えが『筋肉マン』なんですね。三和川さん。
「はあ、何故負けてしまったの……ケンダマン」
コアな趣味をお持ちのようだった。
いや、話題が変わってるぞ。
そのことには自分でも気づいたらしく、三和川はすぐに話を戻してきた。
「それで、リコーダーとレポーターって、なんだか発音が似てるじゃない? だから嫌いなのよ」
「恨む筋合いゼロじゃんっ!? その上強引過ぎるだろっ!」
というか無茶苦茶だった。そんな理由で嫌われる方がかわいそうだ。
さらに突っ込みを入れようとしたところで、ふと、三和川の表情が変わったのに気づいた。
なにかまた違うこと、けれど真剣なことを話そうとしているようだったので、ぼくは静かに三和川が話し出すのを待った。
遠くを見るような目で、三和川は話し始める。
「その時はいつもカンナちゃ、……向居さんが一緒にいてくれた。彼女、音楽はすごく得意だったから。歌だってクラスの誰よりも上手だった」
「……そっか」
それはきっと病気になる前の話だろう。
向居カンナは中学校の頃にかかった病気のせいで、声を失ったと聞いている。
「でもね。向居さんはそれだけじゃなかったんだよ!」
暗い話になるのかと思われたが、それとは逆に三和川のテンションは上がってきた。どうやら話は別のところへ向かうらしい。
「国語も理科も社会も、みんな出来たんだ! どの科目でもクラスで一番だった。掛け算割り算が最初に出来るようになったのだって、向居さんだったもんっ」
三和川はすごく楽しそうに語っている。
小さい頃の思い出というものは、その多くが美化されるものだが、それでも三和川にとってそれは価値のあるものなのだろう。
「クラスの人気者だった! あたしはいつも向居さんの背中を追いかけてた。小学生の頃は体がちっちゃかったからさ。いつも守ってくれてたんだ」
そう言う三和川の身長は、確かにクラスの女子の中では高い方だろう。幼い頃に小さかった子供は、伸びるときには一気に伸びると聞いたことがある。ちなみにぼくは男子の中では平均身長ど真ん中で、三和川と似たり寄ったりの高さである。
それにしてもそれはまた意外な話だった。
後ろで守ってもらっていた。それでは今とまったくの逆の状態になっている。
悪いことを言うようだが、今の向居カンナからは到底そんな力強い姿は想像できない。
「中でもやっぱり音楽が一番好きだったんだ。歌を歌うのがなにより好きな子だった」
先ほどからずっと楽しそうに向居のことを語っていた三和川だったが、ここにきてその口調がわずかに鈍くなり、その表情にも影が差し始めていた。
口が重たそうになっているのが分かる。
「だから向居さん。病気をして、声が出せなくなった時は、すごくショックを受けてた。ふさぎこんで、誰とも会おうとしなかった。私にさえ、それは同じで……」
昔を思い出しているのだろう。三和川の口調は、力のない弱弱しいものになっていた。
「結局、そのショックで一年学校を休むことになって、留年して、私と同じ年に小学校を卒業したの」
「え、どういうことだ? 留年したら、いっこ下の学年と卒業するんじゃないのか」
「ああ、言ってなかったね。でもみんなには秘密だよ。向居さんは私たちより一つ上の、十六歳なの。小学校は生徒数の少ないところだったから、学年をまたがって一つのクラスを作ってたから」
そういうことか。
確かに、自分の一番好きなものが、不幸な病気で奪われたりしたら、それほどのショックを受けるのは当然だろう。しょせんは子供のことだ、というのはおかしい。子供は大人と違って持っているものが少ない。だからそれが失われた時の反動は、大人の比ではないのだ。
その気持ちは分かる。
気休めではなく、ぼくだからからこそ分かるのだ。
痛いほどに。
心が、痛むほどに。
三和川は顔を上げて、話を続けた。
「だから決めたの。これからは、私が向居さんを守るんだ」
三和川は膝の上に乗せた手を強く握る。
「カンナちゃんに恩返しをしよう、って」
決心の言葉を口にした三和川の顔には、普段の力が戻っていた。
それが三和川の誓い、だったわけだ。
この日、初めてぼくは三和川に自分に近しいものを感じた。
いや、最初から感じていたのだろう。だから前からなんとなく気になっていたし、打ち解けることもできた。そしてだからこそ、あれほどの口喧嘩をしてしまったのだろう。
ぼくも自分の手を見る。
三和川のように握っていないそれは、けれど昔に三和川と同じように決心を抱いた手だ。
五年前の、あの夏の日に。
友達に誓った――約束。
いつのまにか遠くで予鈴のチャイムが流れているのが聞こえた。
あと五分で昼休みは終わる。
ぼくと三和川は、一度顔を見合わせ、そろって図書倉庫を出た。
まだ雨の降り止まない、梅雨の時期のことであった。
*
あの後、校門で夏儀さんと別れてからぼくは市内の住宅地に向かっていた。
『山吹町古屋敷20 ガーデン山吹 101号』。
夏儀さんから渡されたメモにはそう書かれていた。
学校から歩いて半時間ほどで、山吹町にはついた。
五つの同じ造りの建物が並ぶ、テラスハウス。ガーデン山吹は、そんな今風のアパートの一つだった。学生二人で住むには、多少でなくても豪華そうな場所だ。
もしもこれを見たのが、今でなければ、素直に驚いたり羨んだりしたかもしれない。
それはつまり、今はそんなことはしない、ということ。
いや、それどころではないのだ。
ガーデン山吹の一つ、位置的に見ておそらく102号であろうその建物から、火の手が上がっていた。
野次馬も消防車も来ていないところを見ると、まだ出火して間もないのだろう。
しかし、問題はそれだけではなかった。
火が!
風向きのせいで隣の建物から出た火が、さっそく風下の建物に移りだしていた。
風下にあるのは101号だ!
ここは手に持ったメモに書かれた場所だ。
しかも、ここには助けを呼ぶ声どころか、その音さえも聞くことのできない人間がいるのだ!
躊躇をしている時間はない。
ぼくは何かを考える前に、目の前の建物に飛び込んでいた。