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ぼくの故郷の町の花が紫陽花でした。だからそこらじゅうにあったのを憶えています。
ちょっと水玉模様と聞いて連想してしまうのが萌太くん≪戯言シリーズ≫なのですが、それもそのはずこの少年のイメージは少年ver萌太くんからの影響大の産物です。水玉鎌ではなく水玉傘♪
あれは夢だったのかもしれない。
雨降りの後に見る虹のように一瞬で曖昧な夢。
それでもその優しく、温かい夢はわたしの心をとても元気付けてくれた。
水玉模様の傘を差した少年がわたしにくれたもの、
それはきっと――――
***
「お姉ちゃんは、迷子なの?」
水玉模様の傘を差した少年は、わたしを見上げながらそう訊いてきた。
近所の公園の隅にある花壇、夕立の中に咲き並ぶ紫陽花(あじさい)の花を前にして、わたしと少年は並んで立っている。
「そうだね。迷子……なのかもしれないね」
わたしはなんとなくそう答えていた。
本当の意味で迷子というわけではない。家だってすぐ近くで、迷いようもない。けれど違う意味でなら、わたしは今迷っているということは確かだろう。
少年は心配そうな顔をしてわたしを見ている。髪の長い、美しい顔をした少年だ。年は十歳にも満たないくらいだろうか。
少年の綺麗な顔を、わたしのためにそんな風にしてほしくなかったので、わたしは話を変えることにした。
「坊やはどうしたの? 迷子じゃ、ないの?」
わたしが尋ねると、少年はその小さな頭を横に振って答えた。
「ううん。迷子じゃないよ。だって」
咲いている紫陽花の花の中、一際鮮やかな色をした水色の花を指差して、
「お母さんがいるもん」
そう言った。
「お母さん?」
「うん。お母さんだよ。綺麗でしょう」
たしかにその紫陽花の花は他のそれと見比べても美しいものであった。色合いや均整のためだろうか、なんとなく隣に立つ少年の美しさに似通ったものを感じる。紫陽花の花を語る少年は、とても嬉しそうな笑顔をしていた。
夕立が少年の水玉の傘とわたしの藍色の傘を打つ音を聞きながら、わたしは少年の言葉を口の中で反芻していた。
そうしているうちに、いつの間にか違うことを考えるようになっている自分に気づく。
考えていたのは母親のこと。家のこと。将来のこと。そういえばわたしはそんなあれこれから逃げるようにして雨の中に家を出てきていたのだ。気分の悪い日にこの公園に立ち寄るのはわたしの癖みたいなものであった。この公園は、いつもわたしの心を休めてくれる。それはいつ、どのようにしてついたのかも分からない、古い癖だ。
「だいじょうぶ? お姉ちゃん、なんだかつらそうな顔してるよ」
わたしを気遣う少年は、また心配そうな顔をしてしまっている。わたしは申し訳ない気分になってしまった。
そんな顔を見ているとなんとなく、この少年になら話してもいいかなと思った。
今まで誰にも話したことのない話を。
わたしはしゃがんで少年に目線の高さを合わせる。けれど視線は少年からそらして紫陽花の方を見たままに、話を始めた。
「ちょっとね。いろいろ、あったんだよ。最近さ」
「いろいろ?」
「うん。わたしってさ今、受験生なの。高校受験。近くの高校だったら上がるのは簡単なんだけどね。でもわたしは勉強して違うところの高校行く気なんだ。この町の隣の隣にある伍葵市の坂上学園っていうところ。あそこは学生寮がたくさんあるから、ちょうどいいんだ。ここから出るのに」
「なにか、あったの?」
「え? ああ、うん。ん~……」
少しだけ迷って、やっぱり話すことにした。ここまで話して途中でやめるのも相手に悪いだろうし。そこまで考えて、なんだか少年のことを子供として扱っていない自分に気づいて、少しおかしくなった。
「変えたいと思ったんだ――環境を、ね」
ぼんやりと眺める紫陽花の葉には、小さなカタツムリがのっている。ぐるぐるの渦巻きがなにかの模様のよう。
「三年生になって、ほんの数ヶ月だけどさ。いろいろあったんだ。お母さんがね、お母さんが家を出ちゃったんだ。ううん。お母さんは悪くないの。先月にわたしの弟の正平が事故に遭って……死んじゃってさ。お母さんはすごく悲しんだの。わたしも悲しんだし、正平の友達だっていっぱい泣いてた。でも、……でもね、お父さんだけは泣かなかったの。泣いても正平は返らないって。きっとお父さんは強かったんだね。強すぎた。でもその強さにお母さんはついていけなかったんだ。だから」
深く、息をつく。雨のせいで気温が下がったのか、わたしの息は心なし白かった。
「だから、出ていっちゃったんだろうね。書置きも残さずに。そのあとは家に残ったのはわたしとお父さんだけ。そのうち二人の間もぎくしゃくしてきて、お父さんはあんまり家に帰ってこなくなるしね。わたしもなんとかしようって努力はしたつもりなんだけど、全部ダメ。空回りばっかりだった。学校でも友人関係うまくいかなかったりで、本当、なんだか調子狂っちゃったみたいなんだよね。それで、さ。環境を変えればって考えたの。住むところを変えて、気持ちを変えれば何かが変わる、いい方向に変わるかもしれない。そう思ったんだ。でも、まだお父さんにはこのこと言ってないんだ。ちょっと言いづらくて、そのせいで勉強にも身が入らなかったりして……それでちょっと気分転換に、散歩ってわけ」
全部話して、首を横にすると少年の顔が見えた。
少年はやはり心配そうな顔のままだ。わたしの話はどの程度まで理解できたのだろうか。利発そうな子だ。全部分かっているのかもしれない。しかしだとしたら、どうだというのだろうか。なぜこんな年端もいかぬ少年にわたしはこんな話をしてしまったのだろう。話し終えていまさらだが、不思議に思えた。それでも、心なしかすっきりしたのもまた事実だ。溜まっていたものを吐き出したからだろうか。少しだけ気持ちが軽くなったのを感じる。
けれど言葉にしてみるということで、同時に実感もしてしまった。
自分が迷っている、という実感を。
この先どうすべきなのだろうか。
お父さんを見捨ててしまってもいいのだろうか。
変化なんて求めるべきじゃないのだろうか。
ただ今のまま、何かがふと元に戻ってくれることを待つべきなんじゃないだろうか。
そして、わたしはいつしか一つのことに思い当たる。
ああ、これだけ考えてやっと分かった。わたしが何を望んでいたのかを。
「そっか、――わたしは全部が元通りにならないかな、ってそんなありえないことをどこかで望んでいたんだ」
その独り言は少年の耳にまでも届くことはなく、雨音の中に消えた。
軽くなった心が、今度は酷い寂寥感を覚え始める。
わたしは雨の中で一人、孤独を感じた。
ふと傘を持たないほうの手になにかが触れる。
いつの間にか少年の小さな手が、わたしの手を握っていた。
まるでどこへ行くか分からないわたしを繋ぎとめてくれているように。
「お姉ちゃんは――迷子なんだね」
呟くように言ったその言葉は、少年の最初の言葉だった。
なんとなく立ち寄った近所の公園。その隅の花壇の前にいた水玉模様の傘を差した子供。最初はわたしから声をかけたんだ。お母さんとはぐれて迷子になっているのかと思って心配して。それが今は逆にこうして心配されている。
最初に見た少年の瞳は、雨の湿気を吸った彼の黒髪と同じくらいに黒かった。その黒い満月のような瞳を、わたしは綺麗だと思った。その瞳に、今はわたしの顔が映っている。いろんなことに迷っている、迷子のわたしが。
「知ってるよ。迷ってるときは、寂しいんだよね」
少年はその手に力を込め、わたしの手を握る。ひんやりと冷たい手。けれどそれはとても落ち着いたものにわたしは感じられた。
少年が言った。いっぱいの笑顔を浮かべて。
「一緒にいてあげる。雨の降る間だけだけど……手を握っててあげる」
小さい子なりに使命感を持った声。わたしを元気付けようとしてくれている気持ちが伝わってくる。それはとても暖かな気持ちだ。最近触れていなかった、心安らぐぬくもりを感じた。目を閉じ、心静かにそのぬくもりを感じる。
誰かが側にいてくれるという安心感がある。
孤独も寂寥もぬぐいさってくれる、優しい温かさ。
ふと、この感じにはなにか覚えがあることに気づいた。
このひんやりとした感触と、伝わってくるぬくもりは以前に感じたことがある。
そう、あれはこのあたりに越してきて間もなかった頃、まだその時わたしはこの少年くらいの年頃だった。まだこの土地に慣れていなかったわたしは、お母さんとはぐれて迷子になってしまっていた。あれは梅雨の季節、こんな雨の日のこと。あの日わたしは迷った末にこの公園にたどり着いた。そして紫陽花の花の前で同い年くらいの少年に出会ったのだ。彼はお母さんが迎えに来てくれるまで、ずっと手を握ってくれていた。わたしが寂しくないようにと。
傘に当たる雨音が小さくなってきた。もうすぐ雨もやむようだ。
あの時も、雨のやみ際になってお母さんは現れてくれた。その時わたしは少年の顔を見たのだろうか。思い出そうとして、なぜか思い出せない。思い出せるのはあの傘の柄だけだ。鮮やかな青と白。水玉模様の傘だった。それは、今目の前にいる少年の持っているのと同じもので――
気づくともう雨音はやんでしまっていた。
目を開くと、そこに少年の姿はなくなっていた。
音もなく気配もないままに、まるでもともとここにそんな子供はいなかったとでも言うかのようにその姿は忽然と消えていた。
視線を落として、少年が握ってくれていたはずの自分の手を見る。
そして、わたしは納得した。
「ああ、そうか」
わたしの手は、いつのまにか紫陽花の葉の先を握っていた。ぎざぎざの葉の先を、やさしく掴んでいたのだ。雨に濡れていた葉は、ひんやりと冷たい。
そして、その葉の上には綺麗な紫陽花の花が咲いている。
その花に向って、わたしは話しかける。
それはとても自然に。そこに少年がいるかのような調子で。
「あの日も、こうして元気付けてくれていたんだね。ありがとう。少しだけ楽になったよ。もう弱音ははかない。自分なりになにをすべきか考えて、頑張ってみるから」
わたしは立ち上がり、手を離してからもう一度、紫陽花の花に向って同じ言葉を言う。
「ありがとう」
と。
傘をたたんでわたしは公園の出口へと向う。
空は雲が切れて眩しい太陽がのぞかせている。それを見ているとわたしも「よーし、頑張るぞー」という気分になってきた。
わたしがいなくなった公園の隅で、紫陽花の花がその身体につけた水滴に光を反射させている。
そこには青や白の花が並ぶ。
その中に一つ、小ぶりな花がそこにはあった。
その花には、白の中にぽつんぽつんと水色の花が混じっている。
遠くから見たその紫陽花の花は、――水玉模様のように見えている。
寂しさの心を表して、そこに少年の優しさ、押し付けがましくない、親しくないとできない優しさを与える。
素敵な物語です!
自分が書いたものとは比べ物になりませんねw
よし!自分ももう少し考えて作ってみます!
載せた場合、是非批評をお願いしますね!
今の作品は、若気の至りということで^^;
またきます!
でも応援してくれるから頑張ります!
それより針山さんも小雪さんもヤル気なのですか!? 小説をっ!?
だとしたら是非読ませて欲しいです。投稿サイトに投稿した場合でもまた教えてくださいっ!