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作品をもっとよきものにするために、常に批評酷評アドバイスを求めております。作品の著作権は夢細工職人-ナギ×ナギにあります。
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テーマは『HERO』
視点は正義の巨大ロボの、整備士。
彼はいつも思う。このロボは、何を考え、悪と戦うのだろうかと。

オチまで構成を考えたはいいが、語りを誰にさせるかすごく悩んだ作品です。ロボの一人称。オペレーターの魅神さん。はたまた正義のヒーローと考え、整備士に落ち着きました。客観的視点でかきたいなーと。



 
『手紙』



――拝啓、博士(おとうさま)

 お元気ですか。巨大ロボ(わたし)は元気です。

 早いもので、故郷(ラボ)を出てから三ヶ月が経ちました。

 お仕事も、始めの頃は不慣れから周りにも迷惑をかけていましたが、最近はようやく慣れてきて、それなりにこなせるようになってきました。

 職場の仲間もいい人ばかりです。先日も、初めて一人も踏まずに怪獣を倒すことができたときには、みんな自分のことのように喜んでくれました。

 中にはうまくいってなかった同僚もいましたが、今では折り合いをつけ、彼らは彼ら、自分は自分と思い、仕事に専念するようにしています。

 巨大ロボ(わたし)は元気にやっています。

 巨大ロボ(わたし)は今日も世界の平和を守っています。

 外は寒くなる一方のようなので、博士(おとうさま)もお体にはお気をつけください。
 
                                                                                                                                                           敬具
 
 
追伸

 研究ばっかりしてないで、そろそろいい人でも見つけてください。オペレーターにいい感じの三十路(いきおくれ)などいるので、よろしければ今度紹介を――――
 
(※)

 
 とんでもなく大きなドックだった。中にある資材を片付ければ、悠々サッカーができるくらいの面積で、天井も高い。そのせいで、ここがとんでもない地下であることを、整備士は時々忘れそうになる。

 整備士は浅黄色のツナギをきた若い男だった。仕事場のせいで肌は白いが、日々の労働のたまものでガッシリとした体つきをしていた。胸のプレートには、『第4整備班/土佐マサト』とある。

 マサトは、ここにくるといつも『ガリバー旅行記』を思い出す。

 小人の国に流れ着き、紐のような縄でがんじがらめにされるガリバーの絵。

 寝かされたまま、いくつもの装置に接続され、パイプをつながれた巨大ロボの姿は、まさにガリバーそのものに思えるのである。そして、自分は無力な小人であることを思い知るのだ。

 ――おきあがるガリバーは戒めをふりはらいます

 ――小人達はあわてふためきました

 そんなフレーズ。

 確かにコイツが急に動き出したりしたら、ここにいる連中はとんでもなく慌てるだろう。そして整備班は、徹夜でチェックの仕事を押し付けられるのだ。

「どうしたよ土佐。今日の仕事は終わりだぜ」

 かけられた声に振り向くと、そこには知った顔――3班の今井がいた。あごひげを整えた青年である今井と、マサトはいわゆる同期の桜だった。

「いや、いつみてもすごいな、と思ってたんだ」

「ああ? ああ、ロボのことか」

 今井もマサトにつられてロボを見上げる。

 あまりに近くにいるために、ここからでは顔の側面しか見えていない。ここではとても見慣れた光景である。

 しばらくそのままでいると、今井が大きなため息をついた。そこからは「よくあきねえな」という気持ちがアリアリ伝わってくる。

 さすがに痺れを切らしたのか、「確かにスゲーはスゲーけどよ」と前置きして、今井がいった。

「さすがに俺はもう慣れたぜ、こいつには。だってそうだろ。田舎から都会に出てきた奴だって、最初は興奮するだろうけどよ、すぐにコレはこういうもんなんだって納得するんだ。それと同じだろ。コイツも」

「それは――そうだけどな」

「まぁ、そうだな。コイツが豪快に怪獣なんかをぶっ飛ばしてくれたら、整備している身としちゃ気分いいがな。ああいうのは野球のジャーマネの気分なのかね」話しながら、今井はカラカラと笑う「ホラ、この前なんぞ初めて犠牲者が出なかったんだよな。上の方なんてかなり喜んでたって聞くぜ。俺もなんか完全試合みてーで悪くなかったけどさ。初めての出撃のときとか、憶えてるかよ」

 もちろん憶えている。

 入念に情報操作をしてきたために、外部にはあまり知られていないが、誤踏みで出た死傷者はとんでもない数にのぼったらしい。それが0名になったのだから、すごい進歩だといえる。たとえそれが人口密度0,5%の弩田舎村だったとしてもだ。

「で、土佐はどうなんだよ?」

「どう、とは?」

「何を考えてたんだって聞いてんのー」

 いつのまにか話が戻っていたらしい。

 マサトは一度目線を落とし、考える。自分は何を考えていたのかを。

 巨大なロボが、ガリバーみたいだと思っていた。それは、つまり――――

「――何を、考えてるんだろう」

「あん?」

 今井が怪訝な顔をしている。マサトの言い方が悪かったらしい。言い直すことにした。

「オレじゃなくて」手を伸ばし、ロボの横顔に手をつける。伝わる感触は硬く、冷たい「こいつが、何を考えてるんだろうって、思ってたんだ」

 熱い血潮も、優しい心も感じられない、鉄の身体。

 マサトには分からない。

 コイツは喜んでいるのだろうか。

 自分の進歩に。

 世界の平和を守っていることに、誇りを感じているのだろうか。

「ぶち切れてんじゃねえの」

 いったのは今井だった。

「絶対ぶち切れてんべ。あいつらによ。間違いねえって」歯を見せ、愉快そうに笑い「俺達もみんなムカついてるけどよ、一番ムカついてんのはこのロボだろ。やれるもんならぶっ殺したいとか思ってんじゃねーの」

「あー」

 確かに。

 マサトは自然と頷いていた。

 あいつら――この巨大ロボを駆るはずだったあの5人の戦隊ヒーローのことを。

 けたたましいサイレンの音が鳴り出したのは、ちょうどマサトが「もう帰るか」といおうとしかけたときだった。赤いランプが辺りを照らし、格所員を所定の場所へ誘導する放送が流れ出していた。

 この状況は――――

「クッソ! このタイミングかよ! 今から交代だってのについてねえ!」

 今井が悪態をつく。その通りだった。

 放送は続いてどこそこの地域に、怪獣が出現したことを告げている。つまり、それはマサトや今井にとっての残業通告だった。

 続いてどこかから荒げる声が聞こえてくる。

 聞き覚えのあるオペレーター達の声だった。「魅神さん。今日もいい声!」と今井は無駄に元気だが、オペレーションルームから聞こえてくる内容は、やはりいつものもの――「ブルーはどうしたのっ?!」「風邪だそうです!」「ブラックはっ?!」「親戚の法事でこられないといってます!」「じゃあグリーンは?!」「電話に出ません!」「ピンクはどうした――っ?!」「海外旅行中だそうです!」「リーダーはっ?! レッドはなにをしている?!」「『だが断る』でした! 無駄に男らしかったです!」「っまたか―――――――っ!!」そしていつもの絶叫を上げていた。整備班だって心は同じだ。みんな同じだ。

 いつものことだが、あいつらは、正義のヒーローのくせに、今まで一度として悪の組織や怪獣と闘ったことがない。一般市民から選ばれた5人らしいが……どんな選考基準で選ばれたのかしらないが……あいつらは戦わない。サボるのである。

 なぜなら彼らの名前はバックレンジャー。

 サボり戦隊・バックレンジャーなのだから。

 今日も巨大ロボは自動操縦で発進する。毎回だが! これしかしたことないのだが!

 発進フェイズに移行しつつあるロボを見上げて、マサトは思う。

 いったい、何を考えコイツは戦うのだろうかと。

 しかしすぐにそんな考えも振り払い、自分の持ち場へと駆け出していた。

 そうだ。

 コイツはコイツだ。自分は自分の仕事に専念せねば。

 
 
 
――拝啓、博士(おとうさま)

 巨大ロボ(わたし)は元気にやっています。

 巨大ロボ(わたし)は今日も世界の平和を守っています。
 
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読みました。
…というわけで感想ですね。
最高です。もう、自傷行為を行いたくなるぐらい悔しいです――というわけにもいかないので、悪あがき程度の批評をばさせていただきます。

1.やはり人口密度のあたりですかね。密度の表示はもちろんのこと、人口が少なくて甚大な被害、っていうのは、結局どのくらいのものなのかピンと来ません。「この村にとっては」みたいな前置きが必要やも知れませんね。
2.レンジャーのくんだりは、やや意味不明ですね。“笑い”がいらないというわけではありません。確か、ライトノベル作法研究所だったと思いますが、話の流れ上必要な“笑い”と、いわゆるKYな“笑い”があるのでそこに注意せよ、というような話があった気がします。ちょっとレンジャーが謎だったので二番目に挙げました。
3.全体的に統一性が薄い。ないこともないのだけど、誰に感情移入すればよいのか、最初と最後の文面は何の意味があるのか、という点があまり解消されてない気がします。

ガリバー旅行記を入れてくるセンスや、文章のレベルは立ち直れないくらいすばらしいと思います。惜しいかなそういう細かい詰めの部分が甘いような気がします。
偉そうに言ってスマソ。ま、気にすんなや。
黒尾のおやじだよ URL 2008/11/02(Sun)13:24:31 編集
無題
aza---su

しっかりと書いてくれてんじゃん。おやじさんよ~
”薄い”って言われたのは少々効いたぜ。
いいパンチもってるじゃねえかヘイヘイヘイ。

なんて。

しっかり感想書いてくれたことにはマジ感謝っす。
参考にさせていただくぜぃ!
ナギ×ナギ 2008/11/05(Wed)12:21:55 編集
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