作品をもっとよきものにするために、常に批評酷評アドバイスを求めております。作品の著作権は夢細工職人-ナギ×ナギにあります。
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この題名を見て「見たことある!」と思った人は乙一ファン合格です。
ちなみにあの話とかぶるところは一切ありません。名前のみです。
電撃掌編王用の作品で(結局出さなかったやつですが)、お題は『夏×学校×幽霊』でした。
どこかを削らないといけないと考えていた時、ある人に「全部削れるんじゃない」といわれ、ひどくショックを受けましたがそれは事実なことで、次回の作品はこれをガーッと作り直したものになっています。
ちなみにあの話とかぶるところは一切ありません。名前のみです。
電撃掌編王用の作品で(結局出さなかったやつですが)、お題は『夏×学校×幽霊』でした。
どこかを削らないといけないと考えていた時、ある人に「全部削れるんじゃない」といわれ、ひどくショックを受けましたがそれは事実なことで、次回の作品はこれをガーッと作り直したものになっています。

わりと有名な話だが、うちの学校には幽霊がいる。
第一校舎の屋上。色あせた貯水タンクの上に、彼女はいつも座っている。
幽霊の名前は中田香奈。噂ではそうなっている。
その名前は一年前の夏休み、校舎の屋上から飛び降りた女生徒のものだった。それは当時の生徒達の記憶に新しい事だったために、屋上に出る幽霊の噂が立ち始めた時には、すぐに彼女の名前が上がっていた。
去年、僕は中田さんと同じクラスだった。
今はもう住んでいる世界すら違うけど。
僕は進級して、授業は第二校舎で受けている。
教室は一番上の四階。
ここからは第一校舎の屋上がよく見える。
貯水タンクの上に座る後ろ姿も、よく見えている。
★
合鍵を作るのに時間は要らない。
拝借した鍵を手に、放課後ちょっと町に出れば、下校時刻までには鍵を職員室に戻すことが出来る。
学校が夏休みに入り、校舎には文化部の連中と数人の教師がいるだけなので、屋上に侵入するくらいなら簡単に見つかることはない。
貯水タンクに背を預け、腰を下ろす。
ここから見える校舎の先には、視界を遮るものは何もなかった。
住宅地、田畑、間に流れる大きな川。
僕の家は小さすぎて見えないけど、ここからは町がほとんど一望できる。
「中田さん」
景色を眺めながら、僕は彼女の名前を呼んだ。
けれど返事はなく、見上げても風になびいた髪しか見えない。
だから僕には彼女の表情を見ることは出来ない。
近くにいるのに、二人の距離はとても遠い。
蒼い空だけが、僕の上に広がっていた。
★
継続は力なり、という。
どうやら矢本智也にはその力があったらしい。
こうして二週間も続けて屋上に通っているのだから間違いない。
中田さんはやっぱり何も話してくれないけど、それでもこうして空を眺めているのが、今ではお気に入りの習慣になっている。
晴れ渡る日の光と、髪が波立つほどの風を同時に浴びるのはとても気持ち良くて、グラウンドから聞える野球部の掛け声も、音楽室からもれる吹奏楽部の演奏も、全てがここでは効果音だった。
学校にあって、学校じゃない。
ここはそんな場所だ。
「矢本くん」
聞えたのは、とても懐かしい声だった。
見上げた僕と、見下ろした中田さんの目が、直線で結ばれる。
「私達の名前にある共通点、なんだか分かる?」
思えば中田さんが僕の名前を呼んだのは、これが初めのことだった。
★
「矢本君のことが好きでした。一緒に夏祭りに行ってください」
電話での告白は、クラスメイトの女の子から。
好きだと言われたのは、初めてだった。
「それで……」
話を聞き終えたマキオは、ファミレスのテーブル越しに僕を激しく睨んでいた。
そしてこみ上がる怒りを抑えているような声で訊いてくる。
「なんでお前はフってるんだよ。沙織ちゃんだぞ。暑さで頭が湧いたんじゃねーのか? 洗浄してやるからちょっとツラ貸せっ」
「違うって。ただ夏祭りの日には予定があったから」
「だったら、そこだけ断ればいいだろうが」
「まぁ……そうだけど」
煮え切らない返事に、マキオはまくし立てるように言った。
「なんだよ。お盆に墓参りでも行くってか? そんなもんほっといて俺と祭り行くぞ。そしてナンパだっ。可愛い子と祭りを楽しんで締めの花火でムード全開だぜ」
一人で盛り上がっているマキオだったが、僕はその申し出を断った。
なぜならその日の予定は既に決まっているからだ。
夏祭りの夜に。女の子と二人っきりの。
★
神在月(出雲限定)が神様の月なら、お盆は一般的に幽霊の日だ。
向こうから帰ってきた魂達を現世で迎え、持て成し、そして再び送り出す。
お盆の日に死んだ中田さんは、やはりその日にいなくなってしまうのだろうか。
いつもの貯水タンクの上、中田さんと並んで座りながら、僕はそんな事を考えていた。
夜の町を見下ろすのは初めてだった。今日は夏祭りということもあって、神社のあたりはとてもにぎやかだ。
「矢本くん。私のこと好きでしょ?」
見事な不意打ちに、僕の思考は一撃でブラックアウト。取り繕おうにも、すぐには言葉が出てこなかった。
「分かるよ。だって雨の日も風の日もやってくるんだから」
中田さんは微笑みながら言っていて、その笑顔は事実すごく可愛いかった。
「でもごめんね。私、他に好きな人がいるから」
どう反応すればいいのか、分からなかった。
「ごめんなさい」
もう一度謝られた。
僕は深く深く息を吸って、訊く。
「今まで留まってたのも、その人のため?」
「そう……いうことになるかな」
曖昧な返事だった。
それでも彼女は笑顔のままだ。
「とにかく私は矢本くんの気持ちには答えてあげられない。もともと幽霊だしね。だから今日誘ったのは最後の時間を付き合ってくれたお礼」
「お礼?」
「そう」
なんのことかと訊き返そうとする僕を、中田さんの指が制した。
唇に向けられた人差し指。
その指がまっすぐ天へと向けられる。
そこから大きな大きな花が咲いた。
夜空を美しく染め上げる、色鮮やかな光の花が。
パァンッ
音は光に遅れてやってくる。
夏祭りの締めくくりである花火が、夜空を自分達の色で染めていった。
その豪快で圧倒的な美しさに、僕は言葉を失った。
これだけ間近で花火を見たのは、生れて初めてだった。
そして僕は中田さんが何を待っていたのかを知った。一年前、何をしに屋上に上っていたのかも。何に恋をしていたのかも。
校舎の屋上は、たぶん町で一番花火が綺麗に見られる場所なんだ。
思わず立ち上がってしまった僕の体を、強い風が押した。
一秒で重力が消失する。
落下の瞬間。
僕はそれを見た。
夜空を背にした、中田さんを。
その絵に目も心も奪われ、走馬灯を見る暇すらありはしななかった。
★
空は星の光に満ちていた。
仰向けのまま屋上に寝ていたらしい。
逆の方向に落ちれば、地面までまっさかさまだったが、こっち側はタンクの分の高さしか落ちなかったのだ。打ちつけた背中はそれなりに痛いけど。
それでも僕は、生きていた。
タンクの上にはもう誰もいない。
まるで長い夢を見ていたような気がする。
だとすると、それはきっと素敵な夢なのだろう。
なぜなら最後に見たあの光景。
花火と中田さんの笑顔が重なった絵が、あまりに綺麗なものだったから。
第一校舎の屋上。色あせた貯水タンクの上に、彼女はいつも座っている。
幽霊の名前は中田香奈。噂ではそうなっている。
その名前は一年前の夏休み、校舎の屋上から飛び降りた女生徒のものだった。それは当時の生徒達の記憶に新しい事だったために、屋上に出る幽霊の噂が立ち始めた時には、すぐに彼女の名前が上がっていた。
去年、僕は中田さんと同じクラスだった。
今はもう住んでいる世界すら違うけど。
僕は進級して、授業は第二校舎で受けている。
教室は一番上の四階。
ここからは第一校舎の屋上がよく見える。
貯水タンクの上に座る後ろ姿も、よく見えている。
★
合鍵を作るのに時間は要らない。
拝借した鍵を手に、放課後ちょっと町に出れば、下校時刻までには鍵を職員室に戻すことが出来る。
学校が夏休みに入り、校舎には文化部の連中と数人の教師がいるだけなので、屋上に侵入するくらいなら簡単に見つかることはない。
貯水タンクに背を預け、腰を下ろす。
ここから見える校舎の先には、視界を遮るものは何もなかった。
住宅地、田畑、間に流れる大きな川。
僕の家は小さすぎて見えないけど、ここからは町がほとんど一望できる。
「中田さん」
景色を眺めながら、僕は彼女の名前を呼んだ。
けれど返事はなく、見上げても風になびいた髪しか見えない。
だから僕には彼女の表情を見ることは出来ない。
近くにいるのに、二人の距離はとても遠い。
蒼い空だけが、僕の上に広がっていた。
★
継続は力なり、という。
どうやら矢本智也にはその力があったらしい。
こうして二週間も続けて屋上に通っているのだから間違いない。
中田さんはやっぱり何も話してくれないけど、それでもこうして空を眺めているのが、今ではお気に入りの習慣になっている。
晴れ渡る日の光と、髪が波立つほどの風を同時に浴びるのはとても気持ち良くて、グラウンドから聞える野球部の掛け声も、音楽室からもれる吹奏楽部の演奏も、全てがここでは効果音だった。
学校にあって、学校じゃない。
ここはそんな場所だ。
「矢本くん」
聞えたのは、とても懐かしい声だった。
見上げた僕と、見下ろした中田さんの目が、直線で結ばれる。
「私達の名前にある共通点、なんだか分かる?」
思えば中田さんが僕の名前を呼んだのは、これが初めのことだった。
★
「矢本君のことが好きでした。一緒に夏祭りに行ってください」
電話での告白は、クラスメイトの女の子から。
好きだと言われたのは、初めてだった。
「それで……」
話を聞き終えたマキオは、ファミレスのテーブル越しに僕を激しく睨んでいた。
そしてこみ上がる怒りを抑えているような声で訊いてくる。
「なんでお前はフってるんだよ。沙織ちゃんだぞ。暑さで頭が湧いたんじゃねーのか? 洗浄してやるからちょっとツラ貸せっ」
「違うって。ただ夏祭りの日には予定があったから」
「だったら、そこだけ断ればいいだろうが」
「まぁ……そうだけど」
煮え切らない返事に、マキオはまくし立てるように言った。
「なんだよ。お盆に墓参りでも行くってか? そんなもんほっといて俺と祭り行くぞ。そしてナンパだっ。可愛い子と祭りを楽しんで締めの花火でムード全開だぜ」
一人で盛り上がっているマキオだったが、僕はその申し出を断った。
なぜならその日の予定は既に決まっているからだ。
夏祭りの夜に。女の子と二人っきりの。
★
神在月(出雲限定)が神様の月なら、お盆は一般的に幽霊の日だ。
向こうから帰ってきた魂達を現世で迎え、持て成し、そして再び送り出す。
お盆の日に死んだ中田さんは、やはりその日にいなくなってしまうのだろうか。
いつもの貯水タンクの上、中田さんと並んで座りながら、僕はそんな事を考えていた。
夜の町を見下ろすのは初めてだった。今日は夏祭りということもあって、神社のあたりはとてもにぎやかだ。
「矢本くん。私のこと好きでしょ?」
見事な不意打ちに、僕の思考は一撃でブラックアウト。取り繕おうにも、すぐには言葉が出てこなかった。
「分かるよ。だって雨の日も風の日もやってくるんだから」
中田さんは微笑みながら言っていて、その笑顔は事実すごく可愛いかった。
「でもごめんね。私、他に好きな人がいるから」
どう反応すればいいのか、分からなかった。
「ごめんなさい」
もう一度謝られた。
僕は深く深く息を吸って、訊く。
「今まで留まってたのも、その人のため?」
「そう……いうことになるかな」
曖昧な返事だった。
それでも彼女は笑顔のままだ。
「とにかく私は矢本くんの気持ちには答えてあげられない。もともと幽霊だしね。だから今日誘ったのは最後の時間を付き合ってくれたお礼」
「お礼?」
「そう」
なんのことかと訊き返そうとする僕を、中田さんの指が制した。
唇に向けられた人差し指。
その指がまっすぐ天へと向けられる。
そこから大きな大きな花が咲いた。
夜空を美しく染め上げる、色鮮やかな光の花が。
パァンッ
音は光に遅れてやってくる。
夏祭りの締めくくりである花火が、夜空を自分達の色で染めていった。
その豪快で圧倒的な美しさに、僕は言葉を失った。
これだけ間近で花火を見たのは、生れて初めてだった。
そして僕は中田さんが何を待っていたのかを知った。一年前、何をしに屋上に上っていたのかも。何に恋をしていたのかも。
校舎の屋上は、たぶん町で一番花火が綺麗に見られる場所なんだ。
思わず立ち上がってしまった僕の体を、強い風が押した。
一秒で重力が消失する。
落下の瞬間。
僕はそれを見た。
夜空を背にした、中田さんを。
その絵に目も心も奪われ、走馬灯を見る暇すらありはしななかった。
★
空は星の光に満ちていた。
仰向けのまま屋上に寝ていたらしい。
逆の方向に落ちれば、地面までまっさかさまだったが、こっち側はタンクの分の高さしか落ちなかったのだ。打ちつけた背中はそれなりに痛いけど。
それでも僕は、生きていた。
タンクの上にはもう誰もいない。
まるで長い夢を見ていたような気がする。
だとすると、それはきっと素敵な夢なのだろう。
なぜなら最後に見たあの光景。
花火と中田さんの笑顔が重なった絵が、あまりに綺麗なものだったから。
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