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春は恋の季節だ!
君は恋文というものを書いたことがあるだろうか。恋文といえばもちろん、心の中で大空に浮かぶ熱気球のように膨んだ気持ちを、意中の相手(同性でもよし!)に向けて書き込むあれのことだ。
君は今、恋をしているか! 恋文を書いているか!
何度でも言おう。喉が潰れ、恋する気持ちで世界がパンクするまで叫んでもいい。
ぼくは恋をしている!
そして恋文を書いているんだ!
恋をする度に石岡文弘は手紙を書く。そして思う。恋をすることは幸せだ。恋文を書けるということに、ぼくは人間に生まれた最高の喜びを覚える。人は恋をする生き物だ。恋ある故に人は万物の霊長たりうる。
季節は春。人生は青春。ぼくたちは思春期まっさかりだ! これで恋をしていないなんてそれは嘘だろう。
だからぼくは恋文を書いている。一枚の紙に自分の想いをぶつけているんだ。何度も書いては消しを繰り返す。ペンが踊り、消しゴムが舞い、丸めた紙が宙を飛ぶ。想いを書き出すのは言葉にするより難しい。悩んでいる時間、恋がまたぼくの胸をしめつけてくる。死にそうなくらいの苦しさだ。だがこれも恋なのだ。恋は幸せと苦しみを併せ持つもの。だからこそ恋には世界で最も尊い価値がある。絶息してしまいそうな苦しみの中、最高の恋文のためにぼくはペンを握る。さらなる深みを求めて、海よりも深い彼女の心を求めて!
『春日ツバキ様』
便箋の一行目に書いたのは想い人の名前。春に始まり春に終わる。なんと清らかで朗らかな名前なのだろう。彼女はぼくの所属する書道部の後輩、新一年生だ。最初、見学に来た彼女が扉を開いた時のことをぼくは忘れない。出会った瞬間、確かに魂が震えたのを感じたあの感動を。その日以来ぼくの頭の中は彼女のことでいっぱいだった。
震える手を落ち着かせ、丁寧に封筒を閉じる。書き出した気持ちがもれ出さないようにしっかりと、こめた想いがあふれないよう丁寧に封をする。
出来た!
明日さっそく彼女の靴箱に投げ込もう。そこはいつも恋文でいっぱいだけれど、そんなことはかまわない。なんたってぼくは幸せなんだ。だって恋をするのは幸せだから。
春は恋の季節。ぼくはいつも幸せだ!
春は恋の季節です。
あなたは恋文を頂いたことがありますか。恋文といえば当然、地平線いっぱいに咲いたヒマワリ畑のような晴れやかな気持ちを、想い人(同性でもアリです!)のために一枚の紙に綴るあれのことです。
あなたは今、恋をしていますか。恋文を頂いたことがありますか?
私は頂いたことがあります。高校に入学をして一週間。春日ツバキの靴箱は毎日恋文でいっぱいになっています。私の一日で一番の楽しみは靴箱を開けること。私にとって、靴箱はサンタさんの袋のように夢と希望で満ちているものなのです。
恋文は私にとって生きがいであって、同時に秘密の宝物でもあります。
正直に言います。
私は恋文が大好きです。
人は恋文に自分の想いを綴ります。熟れた林檎のように真っ赤になった恋する気持ちを、一枚の紙にぶつける。その行為のなんと情熱的で芸術的なことでしょう。思いのこもった恋文を読んだ時、私はいつも優しくて温かい素敵な気持ちになるのです。春の風をいっぱいに肌に受けたような健やかな気持ちに。だから私は恋文が大好き。たまらないほどに恋文を愛しているのです!
季節は春。人生は青春。私たちは思春期です。今は誰しもが想い人に恋文を送らねばなりません!
そして私はついに最高の恋文を頂いてしまいました。
『春日ツバキ様』
便箋の文字には見覚えがあり、やはりそれは石岡先輩から宛てられたものでした。先輩は書道部の上級生で、何度も全国の賞を取ったことのある方です。私は恋文を愛しているのと同時に綺麗な字が好きで、芯のある立派な字を書く先輩に憧れてさえいました。そんな先輩が私を想ってくれていたなんて! そして恋文を書いてくれたなんて! そしてその恋文こそが、これまでに見てきた数多くの恋文の中にあって、一番に素晴らしいものだったのです。恋する気持ちが太陽のように輝きだすその恋文は、封を切った瞬間から周囲の空気を染め、私の心を一瞬で満たしていました。
学校から帰宅し自室の机に座ってからも、私は繰り返しその恋文を読み返しました。何度も眺めては海のごとき想いの中に我が身を沈めます。その度に心は蒼く潤い、世界には恋があふれるのです。
きっと何度も書き直したのでしょう、手紙はくしゃくしゃで、字は先輩のものとは思えないくらいに歪んでいたり、おかしかったりしています。それなのに、その手紙は私を幸せな気持ちにしてくれるのです。
先輩の恋文はたった三行だけの短い文章だというのに、本当に不思議。
また読み返し、心は恋に満たされます。
ああ、なんて素敵なんでしょう。
春は恋の季節。私は毎日が幸せなのです!
え?
恋文の内容ですか。
秘密ですよ。大切な宝物は、こっそりと楽しむものですからね。