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電撃リトルリーグへ出展。2000文字以内。テーマ:謎の転校生。
意外に気に入ってしまいそうです。佐渡島さん
彼女は転校生だった。
担任の女教師に連れられて教室に入ってきたのは、細身の体躯には不似合いな程に大きい肩掛け鞄を提げた美少女だった。
高校の一年生になってまだ一月弱しか経っていない、まだ桜も散りきらないような時期である。転校には少々季節はずれのように思えたが、大きな瞳を恥ずかしそうに伏せている可愛らしい容貌に、誰もそんなことは口にしなかった。
「転校生の佐渡島さんです。席は鈴木君の隣ですよ」
次に本人から自己紹介をするよう促されると、教壇の横にいた転校生――佐渡島さんは一歩前に出てから、やはり恥ずかしそうに挨拶をしていた。
そこまでは、普通だったのだ。
この後、彼女は指示された席に座り、隣に教科書なんかを見せてもらいつつ授業に参加していく、そんな流れになるはずだった。
しかし佐渡島さんはそうしなかった。
変わらずモジモジとした態度のまま、
「あの…一発芸、します」
と言い出していた。
転校初日のパフォーマンスだろうか。内気そうな印象の佐渡島さんが言い出すので、みんな意外に思いつつも歓迎した。教師もそれを許した。
「先生、教卓の前に座って、私に背中を向けて、眼を閉じててください。…はい。そうです。ありがとうございます」
教師は言われるままに教卓横の椅子に座った。
自然な流れだった。
そしてなんの迷いもなく目を閉じ、
二度と開くことはなかった。
誰しもがワクワクしながらその光景を見ていた中、佐渡島さんは提げていた鞄からある物を取り出していた。
鉈だった。
厚手で刃渡りもある作業用の鉈だ。
誰も感想を言葉にできなかった。
よく磨がれているのかギラリと光る刀身は、それだけで教室の空気を変えていた。
その時、次の光景を全員が幻視していた。
けれど伏せ気味の目のままに鉈を上段に振り上げる佐渡島さんを前に、誰もが思考を停止していた。
そして夏の風物詩もかくやの勢いで鉈は真っ縦に振り下ろされ、
ザクロの実が弾けた。
予想が現実になった瞬間だった。
教室でただ一人動きを見せていた佐渡島さんが両手で鉈の柄を握り直して引っこ抜くと、そこには一瞬前まで人間だったはずのグロテスクなオブジェが出来上がっていた。
噴水。
濁流。
決壊。
彼女の中身が堰を切ったようにあふれ出した。
「―――き!」
最前列に座っていた女子生徒の一人が今まさに悲鳴をあげようとし、
「―――っ」
強引に自分でそれを止めた。
佐渡島さんが再び振り下ろした鉈の先端が、彼女の机に突き刺さっていたからだ。あと10センチも深ければ女子生徒の顔面を裂いていただろう。そしてその際どさがわざとだったのか単なる幸運だったのかは分からないのだ。
この瞬間、教室にいた全ての生徒が同様の反応をしていた。たった一度の行動で、数十人の生徒に条件反射が刷り込まれていたのだ。
それを見て、佐渡島さんは血塗れの微笑を見せていた。
そして先ほどの続きとばかりに自己紹介をするのだった。
「はじめまして。改めまして……佐渡島、キル子です。おうし座の、A型。尊敬する人物は岡田伊蔵、好きな食べ物は梅干で……胸はあるけどサイズは秘密です。趣味は通り魔で特技は、
っ!
……と、このように特技は刃物の扱いです」
額に鉈を生やした男子生徒が床に倒れたのと、彼女が言葉を区切ったのは同時だった。
鉈という明らかに投擲用とは異なる刃物が、宙を舞って窓際の男子生徒の頭を割っていた。
彼女の創作物が、二つになった。
この時点で気を失っていた者は幸運だろう。
佐渡島キル子の恐怖の自己紹介は続いた。そこには内気な転校生を囲む微笑ましい空気はカケラもない。彼女の態度だけが先ほどと変わらずモジモジとしたものである所が、どうしようもないほど狂気的だった。
「この前の学校は……人傷沙汰でクビになったので、ここにやってきました。前回は微妙に容赦したため……悔い、が残ったのでこっちでは、始めから、トバしていきますので……よろよ、よろしくね」
キュートな笑顔で、どもりつつもそう絞めていた。
その不安定さがマジで恐怖だ。
トバすな。自重してくれ。
クラスの心がここまで一つになったのはこれが最初で最後だった。
教壇から降りると、佐渡島さんは一直線に教室窓際最後尾――僕の隣へやってきた。
「あなたが鈴木君ですね? ここ、私の席ですよね」
そうでした。
自分で今しがた殺したばかりの教師の言葉に従い、彼女は僕の隣に座った。
当然鉈は回収済みだ。
僕は美少女転校生キターなどと思っていた数刻前の自分を呪った。
「鈴木君。……下の名前なんていうんですか? 教えてくれたら殺さないであげますから……」
僕は一も二もなく回答した。
「何か、部活とか……してるんですか?」
漫才研など、少々。
「それ、殺しても……いい?」
首を傾げて上目遣いの佐渡島さんだった。
僕以外ならばご自由に。セール中ですよ。二人しかいないけど。
「あはは。……なんでやねん」
ツッコミされた。
同時に鉈で喉を真横に一閃されていた。
……なんで、やねん?
目の前には悪戯っぽく微笑む佐渡島キル子。
「ごめんなさい。……約束のこと忘れて、殺しちゃった。でも……これがほんとの忘殺、なんな、なんちゃって」
赤い顔。ペロっと舌を出していた。
それを言うなら忙殺です。ねぇよ忘殺。
しかしツッコミ返す余力と寿命はもう僕には残されていなかった。
阿鼻叫喚が、遠い世界の出来事のように聞こえていた。
窓の外で舞っている桜が、やけに赤く見えていた。
×
「――そんな夢を見たんだ」
「夢オチかよ」
昼休みの食堂で俺は鈴木にツッコミを入れていた。
しかしこんなネタではグランプリは取れない。
漫才研の明日は暗く思えた。
「いや、でもこの話には続きがあってさ。本当に来たんだよ。転校生」
「マジで?」
「佐渡島さんだった」
「まんま正夢じゃん。それで?」
「ああ、殺されたよ」
鈴木はどこか照れるような笑みを浮かべながら、言った。
「僕は彼女に、悩殺されちゃっ…グッハァッ!」
「……なんでやねん」
殺しときました。
そこに、しびれる!あこがれるぅ!
なんてことにはなりません。
『起』『掌』『転』『結』で当てはめると。
『起:転校生がやってくる』『掌:転校の挨拶で異常な行動』『転:夢でした』『結:夢の話をただぼやく』
転が一番やってはいけないパターン。
物語としては滅亡落ちとおんなじだよ。
夢落ちは便利なため、どんな物語でも使えるよ。
言い換えるなら、使ったが最後どんな物語でもぶち壊しになってしまうんだよ。
言い換えるなら、極上の料理に…(以下略)
後、主人公:鈴木の発言が痛すぎるし。
ただ格好つけるだけの人間より、本当の魅力がある人間の方が感動も大きいのに、もったいないです。
最後の締めは本当大事だけど、上手い具合に締めるためには転の部分が重要になるよ。