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前回の電撃掌編王がお題がツンデレだったことから書いた作品です。
投稿済み。
結果は~、どうかな?
「人って、醜いわよねぇ」
「…………」
放課後、図書室での会話だった。
図書室ではお静かに、というのがお約束だが、俺も深雪さんも声を抑えたりはしていない。理由は簡単で、読書の秋だというのに利用者が俺達だけだからだ。やる気のない学校なためか、司書さんの姿さえない。
しかし……
「いやいや深雪さん? 俺達はさっきまでケーキの話をしていたはずでは」
なのに何故そんな重い話になっているのか。
唐突にもほどがある。
「え? 私は土岐秋人君が不細工ねって話をしてたのだけど」
「お、俺の話だったのか」
「そうよ。あなたも小顔体操とかしてみたら? モアイ像みたいな顔なんだから」
「モアイ!? いくらなんでもそのたとえはヒドいだろ!」
俺はあんな長い顎はしていない。誤解だ。
しかし深雪さんはなんか開き直った調子で言う。
「いいのよ。キャラのビジュアルは単純明解な方がイメージしやすいじゃない」
「何の話だ!?」
「かく言う私もツインテールに絶対領域と、キャラ判別の楽な格好なんだけどね」
「自分で言うなよ!」
分かるけど、言っちゃだめだ。
自己主張は題名だけにしてくれ。
けれど深雪さんは俺の内心など気にしない様子で言う。
「フン、嫌ならいいのよ。スポーツの秋って言っても運動嫌いな人はいるものね」
「また話が飛んだような……ていうか俺はけっこう運動好きなんだけど。足とか超速いし。体育祭のリレーでは活躍してたじゃんか」
「ああ、バケツリレーね」
「そうそう、あれはバケツの持ち方がコツでさー……じゃない! 体育祭にそんな防災訓練みたいな種目があるかぁ!」
あったとしてもどう活躍しろというのだ。
でもこの話が伏線になってオチで俺の家が火事になるとかないだろうな。
不安だ。
「ま、秋人君が活躍する話はもういいわ」
いいのかよ。いや、いいのだった。
何故自分からからもうとしてるんだ。かまって欲しいのか俺は。
衝撃を受けている俺をほっぽり、深雪さんはなんのためらいもなく話題を転換する。
「話は戻るのだけど、先日まで『ダイエット・フェア』なんて掲げて低カロリーケーキを売っていた洋菓子店が今日から『食欲の秋・フェア』なんて始めてるんだから。本当に人の精神は醜いわね」
「精神!? そのセリフは俺の顔の話だったのでは?」
深雪さんはきょとんとした顔で言う。
「最初は洋菓子店の話のつもりだったのだけどね。でもそこに秋人君の顔があったから」
「俺はそんな“そこに山があるから”的な理由で馬鹿にされたのか!?」
深雪さんは笑顔で頷いてる。
マジらしい。
あまりにひどい現実に、けっこうへこんだ。
なんで俺は青春の一ページを消費してまで虐待を受けているんだろうか。
「秋人君。落ち込んでないで私の話を聞きなさい」
「なんだよ」
「深雪ユミ、下から読んでも『みゆきゆみ』」
「だからなんだよ!」
「土岐秋人、下から読んでも『ときあきと』」
「そ、そうだったのか!」
自分の名前で驚愕させられてしまった。
回文、それは男のロマン。
もしかすると秋人という名前も季節設定が秋だから、とかそんな適当な理由で付けられたのでは、といった不安までも浮上してきた。
考えすぎだと、信じたい。
ていうか。
話を逸らされている!
「はあ」
なんかため息が出た。
それにしても本当に深雪さんは俺に対してツンツンしている。俺は彼女に嫌われる事でもしたのだろうか? と、こういった勘違いを抱くのもなんというか王道なわけでして……
などと話していると、ふと放送でチャイムが流れ出した。
下校時刻を教える予鈴である。
「もうこんな時間だったの。じゃ、お先ね」
ここにきて深雪さんの動きがえらく速かった。目にも留まらぬ、と言えば言いすぎだが、予鈴が鳴り終わる頃には既に図書室の扉に手をかけている。挨拶もそこそこで未練一切無しの後ろ姿には潔さすら感じるのだけど……
ここにきて俺も本気で突っ込んだ。
「待って! 深雪さん、デレは!? 王道は!?」
そうなのだ。
俺はまだ深雪さんのテレテレな反応を見ていない。ここまで暴言毒舌の限りを尽くしてきたというのに、このまま去られては俺のやられ損ではないか。ていうか深雪さんのキャラ属性的にそれは精細を欠く行いなのでは!
俺の魂の突っ込みが届いたのか、戸口を出かかっていた深雪さんがちらりと振り返る。
そして小粋な笑顔で言った。
「そこはもう字数制限がいっぱいだから。もとい、下校時刻だからね。ほら、大人の事情ってやつ?」
「いやいやいやいや! そんな言い訳してる暇があったら何かできるじゃんか!」
俺はねばる。
頑張れ俺! ここが漢の見せ所だ!
しかし――その気合も深雪さんの一言で粉砕された。
「ツンデレなんて幻想よ。忘れなさい。私も飽きたから」
言いたい事を言い、かっこよく身を翻し、深雪さんは去っていった。
哀しみの涙を流す俺を残して。
ふふふふ、これがオチか。
ならば某大河ドラマ風に言わせてもらおう。
女心は秋の空の如し!
っていうかドチクショ――――!!