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作品をもっとよきものにするために、常に批評酷評アドバイスを求めております。作品の著作権は夢細工職人-ナギ×ナギにあります。
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当作品は、愛と正義のセーラー服美少女戦士キューティー☆マルチーズ(☆が重要)の戦いの日々を描いたバトル&コミカル小説……ではないです。

あとがきみたいにかくと
 一行目だけ既存の本から丸々使わせてもらいました。同じ本を読んでいる人がいたらお友達になりたいです!
 キューティー☆マルチーズの名前の由来は、ある商品名からとりました。たぶんニュアンスで分かるんじゃないかな?

『雨女VS晴男』の方が最新作でした。アップがおくれてすいませんでした


               
 犬飼丸美は戦う女の子だ。美少女戦士なのだ。
 彼女は戦う。
 敵はもちろん悪の組織だ。
 正義を背負い、悪を討つ。
 弱きを助け、強きを挫く。
 何も見返りを求めず、一切の賛辞も受け取らない。
 北に怪獣が出れば、キューティー☆キックが炸裂し、
 東に宇宙人が侵略してきたら、キューティー☆パンチが爆発する。
 南にトマホークミサイルが飛来すれば、キューティー☆豪掌波で撃墜し、
 西に露出魔が出没したなら、キューティー☆本当は触りたくもないんだぞこのゲスが!蹴りをむき出しの急所にお見舞いする。
 そんな感じで、犬飼丸美は戦っている。
 金糸のごときポニーティルをなびかせ、
 ちょっぴり装飾過多なセーラー服で、今日も行く。
 キューティー☆マルチーズ(☆が重要)に変身し、巨大な悪を打ち砕くのだ!

☆☆☆

「ふぅ」
 帰ってきて最初に出たのはため息だった。
 彼女の表情からすると、疲れよりも何か悩みがあるようだ。
 今日もキューティー☆マルチーズ(☆が重要)としての戦いは問題ないものだった。
 通園バスをジャックしていた怪人風呂男を、おなじみの必殺技『キューティー☆千年殺し』で一蹴した後、40人からなる園児達全員と握手&写真&サインをこなし(むしろそっちの方が大変だった)、さきほどやっと彼女の秘密基地(正確には実家)へと窓から帰還したところだ。
 なんの落ち度もない、見事なヒーローぶりだった。
 悪の蛮行はまた一つつぶされ、世に平和は保たれた。
 それなのに、
「ふぅ」
 犬飼丸美はまたため息をついていた。
 自室のベッドに寝転がり、ぼんやり天井を眺めている。
 体力的にも、精神的にも疲れているわけではなかった。
 丸美の変身時の体力たるや底なしで、ドーバー海峡を単身で泳ぎきるほどだ。
 人気者は辛いねぇ的な活動も、慣れた今では昔ほどの疲労は感じない。
 よって、丸美が悩んでいたのは、もっと別のことだった。
「は~ぁ」
 もう一つ大きなため息を吐き出し、丸美はぼやいた。
「そろそろ新しいの、考えなきゃなあ……決めゼリフ」
 決めゼリフ。
 それはヒーロー達にとって命の次に大切なものである。
 彼らの個性を強調し、敵が聞けば震え上がり、泣く子は泣きやみ、時には本人の名前よりも有名になって社会現象すら巻き起こすことのあるもの――決めゼリフこそが、現在、丸美の悩みの種であった。
 犬飼丸美の正義の味方暦は長い。
 中学一年生の頃から、彼女は悪の組織と戦っているのだ。中学生の体力、体格では戦闘アクションは難しいのでは? と思われるかもしれないが、彼女の変身アイテム『キューティー☆ブレスレット』は、その実年齢に関係なく丸美を18歳の美少女ボディに変体させるので、そのあたりは大丈夫なのだった。
 なにはともあれ決めゼリフである。
 有名キャラのものとなれば、それはもはや代名詞と同義。とにかく重要なのだ。そして同じものを使い続けてもいけない。大体一年毎には新しいのを考えなければならないのだ。しかもそれは自分のキャラにピッタリくるもの(またはギャップの激しいもの)が有用だったりもする。ちなみに現在の『とっととおうちに帰りなさいっ!』は、ファン層の平均年齢を一気に押し上げた話題作だったが、これがそろそろ使い始めて一年だ。だから今は新しいセリフを考える必要性にかられている。いいかげん何個も作っているとネタ切れになってきているのも事実だが、これも正義の味方の仕事なのだから考えないわけにもいかなかった。
 もしも犬飼丸美がただの妄想女で、ヒーローになれるのは夢の中かゲームの中限定なのだった、というようなオチのお話だったらならば、こんな悩みはそもそも抱かなかっただろう。しかし変身も悪の組織もリアルの事なのだ。よって彼女を見る他者の視点はどうしても存在してしまう。
 だから丸美は考える。
 思い出してみると、今までたくさんの決めゼリフを使ってきた。
『月に代わっておしおきよ』
『お前はもう死んでいる』
『さよなら。さよなら。さよなら』
 などが有名どころだ。最後のは一年ではなく、元ネタの人がお亡くなりになった時点で使うのをやめていたが(丸美がファンだったので)、どれも聞く者の心をがっしりつかんで離さないパワーのあるセリフだった。そのアピール力たるや流行語大賞にノミネートされたものもあるほどだ(中には『殺(ヤ)らないか?』のような受けが微妙だったので一度しか使われず、そのせいで逆に幻のセリフとして有名になったのもあったりする)。
 机の上のメモ帳には、まだ考え中の案がいくつも書き込まれていて、『殺して解して並べて揃えて晒してやるよ』とか、『虐殺です(にこやかに)』などとヴァイオレンスなのもあれば、『この紋所が目に入らぬかっ!』とか、『お前ら、許さんぜよっ』といったなんとなく古風なもの、『普通の人間には興味ありません。宇宙人、未来人、異世界人云々』や『僕は自動的なんだ』、他にも『ピピルピルピルピピルピ~』といった意味不明なものまで雑多に並んでいる。正直、この中から次の決めゼリフを選ばなければならないかと思うと、丸美も憂鬱だった。
「ファンの人に募集できれば楽なんだろうけどな~」
 ぼやくが、それが不可能なのも分かっている。
 なぜなら募集は出来ても集計ができないからだ。個人でしか活動していないキューティー☆マルチーズ(☆が重要)は拠点や本部といった場所もなく、まさか応募先に実家の住所を教えるわけにもいかないだろう。
 協力者でもいればなんとかなりそうだが、やはりヒーローとは孤独なもので、丸美にはそんな仲間はいない。パソコン越しの情報提供者、というのは味方といえば味方だが、それも少々ニュアンスが異なる。第一、基本的に正義の味方はその正体を明かさないのが社会的常識(お約束)なのだ。それでも年に二、三度は正体がバレることがあるけれど、その度に丸美は秘技・キューティー☆催眠術で発見者の記憶を奪っていた。特に母なんかは年に数度はこれをもらっているので、最近は痴呆症が始まっているとか悩みの種もまいている。
「あ~ぁ、せめて次々悪の組織が出てこなきゃいいのにな~」
 またどうしようもない愚痴だったが、如何せん事実でもあった。
 そう。悪の組織というのは潰しても潰しても次々出てくる。
 中学一年の時から戦っていた悪の組織『赤の爪団』は、キューティー☆マルチーズ(☆が重要)の活躍でその年の暮れには壊滅していた。しかし翌年には新しい悪の組織『BL団』が発足していて、彼女の前に立ちはだかってきた。その翌年も新しい組織が、その翌年も、翌年も、と次々現れてはどの組織も何故か一年しか耐たない上、週末に一体ずつでしか攻めて来ないという不思議な戦闘スタイルを採ってくるので、毎年毎年ルーチンワークのごとく切っては投げ切っては投げしていた。丸美も、一度クリアしたRPGを二周三周こなしているような感覚だったので、二年目以降はほとんど苦戦というものをしたことがない。あまりに丸美が強すぎるために、悪の組織もすっかり求心力が衰え、最近では就職難の中で唯一雇用を大幅アップしているとの噂もあるほどだ。
 しかしそのおかげで、こうして毎年決めゼリフを考えなければならないのだが。
「は~~~~~~あぁ」
 また豪快にため息をつきながらも、丸美は悩んでいる。
 やはり自分は考えるより肉体労働向きだ、と思いながらも。
 丸美は思う。
 ヒーローとは悩むものである。
 孤独であるが故に、相談できる人がいない。
 まったく人生とは難しいものだ。悩み事が全部、怪人ぶっ倒して解決するなら簡単なのに。
 いやはやヒーローとは苦悩するためにいるんじゃないのかな~
 とかとか。
 などなど。
 コンコン。
「コンコン?」
 考えすぎでついに頭が変なとこに行っちゃったかと思えば、音は部屋の扉を叩いた音だった。父が単身赴任中で、子供は丸美が一人なので、扉をたたく人といえば母しかいない。
 すぅっと、自然と丸美の眉根が寄る。
「丸美ちゃん、起きてる?」
 弱々しい、腫れ物に触るような声が扉越しに聞えてきた。
 その声に少しだけ苛立ちつつも、丸美は机をコンコンと叩く。返事をすることさえ面倒だと思うが故の行動だ。いつものことなので、悪いとも思わない。こちらが起きていることは電気の有無で分かっているだろうに、本当は入ってきたくもないのだろうということが感じ取れた。
 扉を開け、入ってきたのは年齢以上に疲れた印象を与える女性だった。
 今日はいつもより妙にビクビクしているように見える。
 丸美の母は、手にお盆を持って、腕からはビニールを下げていた。
「はい。丸美ちゃんの好きなチャーハンよ」
「ん」
 ありがとうでも、いただきますでもなく、それだけ言って丸美は母からお盆を受け取った。そして腕のビニール袋を見る。母もその視線に気づいたようで、袋を恐る恐るベッドの上に置いた。
「ちゃんと買ってきましたよ。ジャンプとマガジン。買う場所を選んできたから折り目一つないから」
「ん」
 丸美の返事はやはりそれだけだった。彼女の目だけは言語外に「早く出て行け」と言っているが、やはり頑なに思えるほどに口を閉ざしている。
 やりとりは終了し、いつもなら丸美の視線に応えて母が出て行く場面だったが、今日はそうではなかった。チャーハンに手を伸ばす丸美を前に、母は気まずそうにたたずんでいた。それでもなんとか、本当にいっぱいいっぱいな感じで話を初め、
「あっ、あのね丸美ちゃん」
「お母さん!」
 被いかぶせるような丸美の声に、すぐに遮られた。
 丸美の一声でかわいそうなくらいに萎縮してしまっている母に、彼女は偉そうな態度で言う。
「お母さん、最近はエネルギー資源とかが危ないんだよ。みんながリサイクルにいそしまなきゃ地球はあっというまに死の星になっちゃうんだよ。デスラー来るんだよ。だからビニール袋なんてもっての他なの。ちゃんと買い物袋持参しゃなきゃ。テレビくらい見ようよ。もう、これだからお母さんは……」
「ごめんね。ごめんね丸美ちゃん。ごめんね……」
 あまりに哀れで、その格好が逆に丸美をイラつかせるのだが、それでも今日は母も退かなかった。よほどの決意を胸に秘めてやってきたのだろう。顔にはダラダラ汗をかきながらも、座る娘に相対する。
「あ、あのね。……そろそろ…………と思うの」
「は? 何? ボソボソ言われても聞えないんだけど」
 怒鳴られ、さらにオドオドした態度を強める母だったが、まだ退こうとはしなかった。
 今にも泣きそうな目になりながらも、話すのをやめない。
「あのね。丸美ちゃん。そろそろ、働くか、それとも結婚相手を探すとか……すべきだと思うの。このままじゃいけないわ。こんな、何年も何年も部屋にこもりっぱなしで……学校だって中学中退で、お勉強だってしてないのに……だってあなた」
 丸美の母は言う。
 ヒーローの真の悩みとするところを、口にした。

「あなたもう28なんだから」

 その言葉は丸美を見えないハンマーで殴りつけた。
 正義の味方暦の長い――もう15年もやっている――
 中学校中退の――ヒーロー活動のために学校休みまくっていた――
 28歳で仕事も結婚もしない――ニートでひきこもりの――
 裏では最強のヒーローで――表では最弱の駄目人間である――

 犬飼丸美 = キューティー☆マルチーズ(☆が重要)は、

 ぶ ち 切 れ た。

「うるさいうるさいうるさぁぁっい!
 お母さんアタシのことなんにも分かってない! 分かってない分かってない分かってない! アタシはそんなこと悩まなくていいの! 正義の味方なのっ! 変身してれば永遠の18歳なの! だから学校も何も関係ない関係ない関係ない! 決めゼリフ考えるのに忙しいんだから出てって! 出てってよ! アタシの部屋から出てって!
 いいからアタシに関わらないでっ!」

★★★

 癇癪を起こした丸美を止める術は母にはなく、数分後、散らかりつくした部屋に丸美は一人で立っていた。
 立ち尽くし、丸美は思う。
 本当に、ヒーローに悩みは多い。
 それが実在するヒーローなら、なおさらだ。
 長いこと美少女戦士をやっているというのに、悩み事は増えるばかりだ。
 いや、憂鬱こそがヒーローの条件だと言える!
 他の事に悩むのが嫌で現実逃避に戦っている訳ではないのだ!
 きっとそうだ。絶対無欠に間違いないっ!
 だから犬飼丸美は戦う!
 美少女戦となって、悪の組織と戦うのだ!
 頑張れ、犬飼丸美!
 戦え、キューティー☆マルチーズ(☆が重要)!
 彼女は今年でデビュー15周年!
 ニートでひきこもりなのは、世を忍ぶ仮の姿!
 決まった次の決めゼリフは、

「二度とアタシに関わるな」

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