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違うよ? 『化物語』のパクリじゃないよ。名前が似てるだけっすよ。
それにしても、こういう作品は書いてて楽しいです。書きなれてるからかな。別の長編が上手く進まない憂さ晴らしでもあったり!! 途中でなんか出しやがって、終わらせる自信あるのかよ、と言ってしまいたくなるのですが、出します。途中だからこそ、見てもらって修正を加えていこう、と。
鍛錬サイトにも短編として出してみようか、とも考えているのですが、やっぱりルール違反だろうか。
12月5日、加筆修正
000
ぼくは夢を見ていた。
昔のことを。
楽しそうな笑顔を浮かべて、友達と駆けていた日を。
二十年も生きていないのに、今も昔もないだろう、と言われるかもしれない。
けれどぼくにとって昔とは、確実に存在する。
今と昔の分かれ目は、五年前のあの夏の日のことだ。
空気さえも焦げるような、あの一日。
決してその光を絶やさない灼熱の太陽。
四方から響き、鳴り止むことのない蝉時雨。
木立の影。数え切れないほどの青い葉が、風でこすれあう音。
合わせ鏡の中の像のように、どこまでもどこまでも続く真っ赤な鳥居。
そして、あいつの姿。
ぼくは夢の中でも苦しんでいた。
あいつは夢の中でも苦しんでいるぼくを見て、笑っていた。
その大きな口を、歪めながら。
あれより前はぼくにとって全てが昔のことで、過去として区分される時間だ。そしてあの日以降、今日まで続いてきた時間、五年間の全ては決して途切れることなく続く、明確な“今”なのだ。
ぼくは“今”を生きている、と言うことが出来る。
生かされている、と言うことも出来る。
そして、生き残っている、ということも。
常に生を感じ続けている人生。
それは決して死を忘れられないということ。
ぼくは死んではいけない。
生き抜かなければならない。
それは課せられた義務であって、
それは託された願いであって、
それは信じた希望であって、
それは、ぼくの意地だ。
夢の中でも僕は生きていた。
何度も何度も死ぬ夢をみたぼくが、生きている夢を見たのなんて、これが初めてかもしれない。
ならばこのまま生きていよう。
目覚めの時を感じ出しる。
もう夢は終わるようだ。
最後にこれだけは言っておく。
これはついているやつらの物語だ。
最高についている。幸運の塊のような人間達の物語なのだ。
夢の終わりは、夢の始まりを告げる。
では、そんな人間達の話を、始めよう。
001
ぼく、宿木都(やどりぎ・みやこ)が目を覚ますと、最初に頭上にある真っ白な天上が目に入った。
身体を包む感触に、自分が布団の中で寝ている事を感じた。けれど、ここはぼくの部屋ではない。ぼくが住んでいるのは、古風な木造建築の寮であり、ぼくの部屋も造りは同様で、天井だって木目のある木の板だ。だから、ここがぼくの部屋ではないということだけは判明した。
ならばここはどこなのだろうか。もう一度目をつぶり、起き上がらずに考えてみる。
何かを思い出す時は、いつも朝の出来事から順に思い出していくものだ。
ぼくは小高い山の中腹にある学校、坂上学園に通っている。高等部の一年生だ。成績はあるゆる科目において飛びぬけて悪くも良くもなかったので、留年も飛び級もすることはなく、現在は普通に十五歳だ。
今朝だって少し寝坊気味に登校した。ぼくは遅刻の常習犯ではあったが、たしかに今日はギリギリ間に合った。授業も、間に居眠りをすることはあったが、ほどほどにこなしてきた。昼飯は菓子パンを食べて、午後の授業は半分くらい寝ていて、放課後――
そこまで考えて、やっと気づいた。
放課後の記憶がない!
それはつまり、
「痛ててっ!」
何か思考がまとまりそうになったところで、激しい頭痛がぼくの頭を襲った。
いや、頭痛でいいのだろうか? これは中から来るものでなく、間違いなく外から来たものだ。脳天にこぶでも出来ているのか、激痛のもとはその部分に枕に触れたことだった。
自分の身体のことだから、その状態はだいだいは見なくても分かる。たぶんこれは、触るだけで涙が出るほど痛みの来る類のものだろう。
なんだ? なんでこんなところに、こぶが出来ているんだ?
生じた痛みのせいで、さきほどまで考えていたことの内容が真っ白になっていた。
「あ、起きたのね。都ちゃん」
その声は、寝ているぼくのすぐ横から聞こえた。
その声には聞き覚えがある、いや、例え聞き覚えがなくても、ぼくの名前を(気にしてるのに!)女の子のように“ちゃん”付けで呼ぶやつは、現在ぼくの周りには一人しかいない。
そいつは先ほどまでパイプ椅子にでも座っていたのか、立ち上がり、上からぼくを見下ろしてきた。肩口ほどまで伸びている黒髪が、まっすぐに下へと落ちる。睨まれると怖い鋭い眼の中に、ぼくの顔を写している。
「おはよう、都ちゃん」
三和川ミナはそうしてもう一度ぼくの名前を言った。
ぼくは痛む頭を触らないようにしながら、上半身を起こす。布団がめくれ落ちて、ぼくは自分が学校指定のブレザーを着たまま眠っていたことを知った。
「なんで三和川がここにいるんだよ」
「なんで、って憶えてないの?」
三和川が首をかしげ、そう言った。
「ああ、なんだか頭が痛くてさ……そうだ。なんでぼくはこうしていたのかも気になるけど、この痛みも疑問だ。なんでぼくの頭はこんなに痛いんだ? 三和川、知ってるなら教えてくれ」
頭のこぶは触らなくてもヒリヒリしている。声を出すだけで多少は響く。これは完全回復に数日は要するかもしれない。
「それはね。君の頭が幼女しか性の対象として認識できないロリコンブレインだからです」
「そいつはイタいっ! って違うだろう! 誰がぼくがイタい人な理由を説明しろといった!? それ以前にぼくはロリコンじゃない!」
叫ぶようにして突っ込みを入れたために、その振動が脳天のこぶに盛大に響いた。
ぼくは自分の頭を抑えながら布団にうずくまってしまう。
それにしてもなんだロリコンブレインって? ちょっとかっこいいじゃないか。
「ごめんごめん。まさかそんなに乗ってくるとは思わなくて」
そう言って三和川は、右手の人差し指を口元に当てて言った。
「これは秘密だったよね」
「待てっ! それじゃあぼくが本当はロリコンみたいに聞えるじゃないか」
「そんな風に言ったら、都ちゃんがロリコンじゃないみたいに聞えるよ?」
「ロリコンじゃないよ! それで合ってるよ!」
「でも都ちゃんって、けっこう一匹狼っぽいところがあるよね?」
突然話題が変わったので、ぼくは一瞬戸惑った。
確かにそうだけど……だから、それがどうかしたのか。
「ロリコン、ロリコン…………ロンリー・コンプレックス。日本名、孤独症候群。症状、いつも一人でいたくなる。友達が少なくなる。会話が苦手になる」
「なんだそれは!? 何を勝手に新語を創ってるんだっ」
「いいのよ。これから発表するんだから、名前をつけたって」
三和川が腕を組んでから、言葉を続ける。
「ちなみに発表の際は都ちゃんの名前を使って出すわ。そしてその名前は《ミヤコ・ロリコン》として世界中で扱われるようになり、後世まで語り継がれていくの」
「すげー恥じゃないかっ!? 世界中に汚点をばらまいてるよ、ぼくっ!?」
「いいじゃない、世界中のたくさんの人が君の名前を呼ぶのよ。これはきっと名誉なことよ」
「名前の下に《ロリコン》がついてるけどなっ!?」
そう叫んで、ぼくは頭を抑えて布団の上につっこんだ。
脳天は先ほどから継続して痛みの信号を発信している。これ以上続けていると、本当にどうにかなってしまいそうだ。この女、もしかしてそれが目的なのか?
「痛そうだね。大丈夫?」
「お前のせいだよっ! って、イタタタタ」
マジで痛い。本当にどうしたんだろう。痛さのせいかどうしても思い出せない。
すると、三和川がぼくの頭に手をやって、撫でるように動かした。
「ほーら痛いの痛いの飛んでいけー。…………と油断させたところで、アイアンクロー!」
「ギャー!」
思ったより強かった三和川の手の力に驚くよりも前に、ぼくは痛みで絶叫を上げていた。部屋は狭いのか、ぼくの声ががんがん響いている。洒落にならないぞ、これは。
それにしてもなんなんだこいつは?
このテンションの高さと迷惑さはなんなんだ? そしてなぜその被害をぼくが受けているんだ!?
「なにするんだよ!?」
手を離した三和川に、ぼくは声を上げて訊く。
「治るかと思って。ショック療法」
「そんなもので治ってたまるかー! それにショック療法を外傷のある人に使っても、傷が増えるだけだっ!」
ぼくは、はあはあと息切れをしながら突っ込みを入れていた。もう頭の痛みも、何かを通り越してしまってよく分からなくなってきた。大声から来る軽い痛みも、慣れればわりと心地よいものに……って、これじゃマゾだよ!? ショック療法で人格改造されてるよ、ぼく!?
「やっぱり痛かった? メンゴ」
謝る気ゼロの口調だった。
そして死語だった。
未だにメンゴなんて使ってるやつ、初めて見たよ。
三和川の後ろ、この部屋の情景を改めて見てみると、やっと自分が学校の保健室にいることに気づいた。備えつきのベッドの一つに眠っていたようだ。
「ここ、保健室か」
「そうよ。君は廊下で滑って転んで頭を打って気絶してのびてたの。そこを通りすがった私が助けて、保健室まで運んであげたというわけ」
大雑把だが、一言で済む説明だった。
最初からそう言ってほしかった。なんだったんだ、ここまでの数ページに渡る攻防は。痛み分けどころか、一方的にこちらが被害を受ける形で終わってしまったじゃないか。
ぼくはもう一度、痛くないように注意しながらこぶの部分をさすった。
どうやら、ぼくは転んだ末にこいつを作ってしまったらしい。うう、ぼくめ、なんてドジな野郎なんだ。タイムマシンがあったら、時間を戻って一発殴ってやりたい。当然、脳天以外のところを、だ。
そこまで考えてから、自分が三和川の世話になっていたことを思い出した。
「そっか。三和川が運んでくれたのか、礼を言わないとな」
「いいよ。お礼はもうもらったから」
「なんだ!? いったいぼくから何をお礼として徴収したと言うんだっ!?」
すると三和川はいやに妖しげに微笑むと、自分の唇をその指先で撫でながら言った。
「都ちゃんって。唇、すごく柔らかいんだね」
「ぼくはファーストを奪われたのかっ!?」
とっさにぼくは自分の唇に残る感触を確かめる。けれど、どれくらい前のものなか分からないそんな一瞬の接触を、さほど敏感でもないぼくの肌が憶えているわけがない。
でもなんだかそんな感じがするような、しないようなー!
「へえ、都ちゃん経験なかったんだ。冗談だよ冗談。奪ってないって」
「紛らわしくて恐ろしい冗談はやめろっ!? 本気でビビったんだからなっ」
本気で怒っているぼくを、三和川はおかしそうに眺めている。
完全に手のひらの上だな。
さて、そろそろかな、と言って、三和川はパイプ椅子から立ち上がった。椅子に立てかけてあった鞄を手に取る。
「憶えてないなら……」
その時に三和川が言った言葉は、小さすぎてぼくの耳に届かなかった。
「じゃあ、私はこれで行くから。お大事にね。都ちゃん」
そう言って、三和川はぼくに背を向けた。外に出ようとして、けれどパイプ椅子を片付ける事を思い出したらしく、一度振り返って、先ほどまで自分が座っていたそれを畳んで、持ち上げた。
――持ち上げた。
――三和川が。
――両手で。
――胸の前辺りで。
その姿に、ぼくは既視感を憶えた。
奇妙な感覚。
なぜか頭のこぶが痛んだ気がする。
三和川が手を振って、何かを言ってから保健室を出て行った。その言葉はぼくの頭には入ってこなかった。
扉がバタンと閉まり、その音を拍子にぼくはすべてを思い出した。
なぜぼくが気絶していたか。
なぜ頭がこんなに痛いのか。
なぜ今の姿に既視感を憶えのか。
髪の長い三和川ミナが 廊下の向こうで重そうな花瓶を両手で胸の辺りに支えている 重そうだ 今にも落としそうだから助けてあげないと 走っていくと向こうは首をぶんぶんと左右に振ってなにかを拒否している バランスがそのせいで崩れた 花瓶が落ちるぞ 受け止められるか!? ダメだ。この角度だとぼくの頭にぶつかる―――――――――
衝撃。
花瓶が割れる感触。
意識が飛ぶ一瞬前、ぼくはそれに気づいた。
花瓶が、
髪の長い三和川ミナが持っていた花瓶が、ぼくの頭にぶつかって派手に割れたとき、
一切の音とというものが出ていなかったということに。
「おいっ! 三和川ちょっと待てよっ」
ぼくは靴下のまま保健室のベッドから降り、今出て行ったばかりの三和川を追った。
まだ遠くには行っていないはずだ。
ガラリ、と扉を開ける。
「三和川、さっきお前っ」
声を出し、果たしてそこに三和川の姿はあった。
いや、違う。
髪が長い! でも顔は三和川だ。
これはいったい、どういうことだ。
考えるより先に、ぼくの手は動いていた。
すぐそこにいた髪の長い三和川の手を掴んだのだ。
そして、問いただそうと思って口を開き、
「 」
出なかった。
声が。
いや、声は出したはずだ。感触がある。肺に取り入れた空気を吐き出し、喉を振るわせた感触が。だというのに、口をふさがれているわけでもないというのに、それは音として世界に出ることはなかった。
困惑しているぼくに手をにぎられている少女。髪の長い三和川ミナ。彼女は、ぼくよりも怯えた顔をしていた。そして何かを見ないように目を強くつぶった。
ぼくがその対象に気づくのには、わずかなタイムラグがあった。
振り向き見たときには既に、黒く無骨なスタンガンはぼくのわき腹にしっかりと押さえつけられていた。
戦慄し、硬直し、総毛だった。
どういうことだ?
わけが分からない。
なんでこいつがいるんだ?
なぜ三和川ミナがもう一人いて、そいつがぼくの腹にスタンガンを押し付けているんだ!?
ぼくの後ろにいた方の三和川は(こっちは髪が短い!)、うっすらと微笑んで、言った。
「ごめんね都ちゃん。やっぱり君、ついてないわ」
??????
そして三和川が、握ったスタンガンのスイッチを入れた。
バチッ、という音は、聞えなかった。
激しい衝撃が身体を駆け抜ける。意識が混濁し朦朧となって方向感覚がすべて失せてしまう。足がもつれ、ぼくは廊下の上にふしてしまった。
こうして、宿木都は本日二度目の気絶を体験した。