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二日おきに更新なんかして大丈夫なのか自分……

とこ言いたくなりますが、します更新! 完成を目指して!

ついに登場(させちゃったよ)日本史教師、凪夏儀! なんとかもっと特殊キャラらしくかけないものかー???

12月13日、加筆修正


003

 

 ぼく――宿木都(やどりぎ・みやこ)が聞いた三和川ミナの話は、不思議なものであった。
 まるでどこかの民話にでも出てくるような、不思議な話。
 それは三年前の話になる。
 その年、ミナと、姉のカンナの両親が離婚をすることになった。
 事の発端は、どちらが先かも分からない不倫話だったけれど、最終的に二人は父と母の双方に引き取られ、離れ離れになることになった。
 けれど子供たちはそのことを異とした。
 離れたくないと。
 別れたくないと。
 しかし離婚の話は進み、二人が別々の土地へと引き離される日が近づいてきた。
 そんな時、カンナが言い出したのは、神様にお願いをするということだった。
 いかにも子供が思いつきそうなことだった。
 困った時の神頼み、というのことを考えるのはどんな小さくても同じなのだ。
 しかし二人の場合は、ただの神頼みではなかった。
 彼女達は、頼るべき神様を選んだのだ。
 二人の実家。三和川家は、その土地に古くからある、神社の家系だった。
 そして、神社の裏には、封印のなされた小さな洞窟があった。
 そこには神社の御神体がしまわれている、と二人は数年前に他界した、神社の神主であった祖父から聞いていた。同時に決して立ち入ってはならない、とも。
 幼いころからその周りで遊んでいた二人は、その洞窟に、子供の身体がやっと抜けられるくらいの穴があることを知っていた。これまでは注意されていたこともあり、興味本位で入ることはなかったが、その日は決心を固めてその洞窟へ向っていた。懐中電灯を持って、逸れないようにしっかりと手をつないで。
 初めて入ったその洞窟は、湿っぽい場所だった。
 それが元々は水を引くための水穴だったらしいのだが、当時の二人にはそれを知るすべはなかった。
 懐中電灯をつけて奥へ奥へと、御神体を目指して進むうちに、二人は蝙蝠の群れに遭遇し、突然現れた黒い翼の群れに驚いた二人は、洞窟の中で離れ離れになってしまった。
 いつのまにか、洞窟の別れ道に入ってしまっていたらしく、二人とも懐中電灯は持っていたが、会うことはできなかった。
 ミナは洞窟の中をさまよい、結局なにも見つけられずに戻ってきたが、カンナは道を進むうちに、広い場所に出つことができた。そこには大きめの空洞があり、洞窟の中に小さな地底湖があった。
 真っ暗な池。
 そこは光も流れもない。暗い水だけがそこにはあった。
 なんの音もしない、あまりに静寂すぎる場所。
 その静寂さは、十を過ぎたばかりの少女には耐えられるものではなかった。
 カンナは静かさへの恐怖のあまり、石を池に投げ込んだ。
 ポチャン、と音を立てて水面に波紋が広がり――
 ――三和川カンナは神の怒りを買ってしまった。
 呪いをかけられてしまった。
 なんとかミナと再会したころには、その症状は現れていた。
 いや、違うだろう。
 現象が現れていたのだ。
 怪異と言う名の、現象が。
 その日から、三和川カンナは音を失ってしまった。
 自分の身体から声も何も、あらゆる音という音が出せなくなってしまい、また彼女は触れているあらゆるものからも、音を消し去ってしまうようになった。
 それこそが、カンナにかけられた呪いだった。
 二人が入った洞窟。そこには音無しの池という、一つの神の座があった。
 静寂を好む神のおわすところが。
 その場を騒がせた罪を負い、カンナは呪いを受けてしまった。
 それが“音無しの呪い”。
 その日から、三年の月日が過ぎていた。

 

 

 腕時計の針は、もう午後九時を指している。
 こんなに遅くなっているとは思わなかった。保健室で目を覚ました時点で、だいたい夕方くらいだったのだろう。それでまた眠らされて、話を聞いて、それだけのことが放課後に入ってからの五時間で行われたとしたら、どうやらぼくは、ずいぶんと濃密な時間を過ごしてしまったらしい。
 体育倉庫から解放されたぼくは、今は一人、校門への道を歩いている。
 二人の過去を聞かされ、その後でぼくは脅迫を受けた。
 絶対にこのことを誰にも話さないこと、そして今後一切私たちに関わらないこと、それが向こうの要求で、その後で言われたのが、もしもこの約束を破った時の話だ。
「その時は君に、お姉ちゃんと同じ呪いを背負ってもらうことになるから」
 三和川ミナはそう言って、ぼくが頷くのを見ると、手錠を外してぼくを解放した。
 監禁から脅迫にいたるそれまでの過程は、実に手馴れているように見えた。
 おそらくこうして発見者を脅したのは、今回が初めてのことではないのだろう。
 人間一人分の質量を隠し切るのは、それほど簡単なことではない。
 ぼくの時の様な、不幸な偶然もまたあったはずだ。
 二人は、その時にいつもこうしてきたのだろう。
 確かにあんな超常現象的なものを見せ付けられれば、たいていの人は驚き、混乱する。そこに、この呪いをお前にもかけるぞ、と脅されでもしたら、もうしゃべれるどころか、近づこうとすら思わないはずだ。
 しかし、それは脅迫する相手が普通の人ならば、の場合の話だ。
 あいにくだが、ぼくは普通の人間ではない。
 あの現象を見ても言えるほどに、ぼくは普通とは異なっている。
 そして三和川の最後の言葉が嘘であろうことも、ある程度予測はついていた。
 二人は先に消え、少し時間を置いてからぼくは体育倉庫の前を離れた。
 あんな話をされた後で、一緒にいるのは気まずいから、ではない。
 別の理由で時間を外す必要があったのだ。
 そう、あの人に会うためには、三和川たちがいることは、ぼくにとって都合が悪い。
 そのことは向こうの方でも承知しているだろう。こうしてあえて一人になれば、向こうの方から接触してくるはずだ。
 必要な時に現れる。けれど必要以上には現れないのがあの人だ。
 噂をすれば影。
 すでに閉まってる校門の前に、一つの影があった。
 ぼくの姿には当に気づいているのだろうが、なんの反応もよこさない。
 校門の前まで辿り着いて、やっとその顔を見ることが出来た。
 闇に溶け込む黒青色のスーツに、短い髪、細長い糸目に縁なしのメガネをかけた、細身の男性。
 そこにいたのは坂上学園の日本史教師、凪夏儀(なぎ・なつぎ)であった。
 夏儀さんは見かけどおりの柔らかな物腰で、ぼくに挨拶をしてくる。
「やあ。宿木くん」
「こんばんは。夏儀さん」
 普段の学校では、ぼくは凪先生と呼んでいるが、今のような時はそうではなく、夏儀さんと呼んでいる。まだ高等部に入ってから半年しか経っていないが、夏儀さんとぼくはそれ以前からの知り合いだった。それでだ。
 夏儀さんとの縁は、五年前からのものだ。付き合いは、それ以来続いている。十歳の時、ぼくが夏儀さんに助けられたことが、その始まりだった。
 《三眼の魔術師》。
 夏儀さんは、初めにぼくにそう名乗ってきた。
 あの時は、数年後の自分がどんなものになっているかなど、考えたこともなかった。
 なぜ今、夏儀さんがこんな時間に、この場所にいるのか。
 そんなことは聞くまでもない。
 ぼくが、――宿木都が怪異と出会ったから。夏儀さんがここにいる理由は、それだけだ。
 夏儀さんはもたれていた校門から背を離し、腕をポケットに入れたままに、ぼくと対峙する。
「半年ですか。今度はまたずいぶんと空いたものですね。間隔が」
 夏儀さんの言葉に、ぼくは無言で頷く。
 半年。それはつまり高校に入学して以来、初めて、ということになる。
 どうりで対応が遅れるはずだ。考えてみれば、それほどぶりのことだったのだ。
 トラブルに巻き込まれるのは。
 怪異と、出会うのは。
「ふむ。三和川ミナと、向居カンナですか。高校最初の事件としては、ほどよいものかもしれませんね」
 夏儀さんは、自分で自分の意見に納得するように頷きながら言った。
 ぼくは夏儀さんのの言葉の意味を図りかねたので、訊いてみた。
 なるべく希望的観測で。
「ほどよく、簡単なんですか?」
 しかし夏儀さんは頭を振る。
 そして笑顔で言った。
「ほどよく難しくて、ほどよく危険、ついでにほどよく命がけ、といったところです」
 ぼくの予想は逆もいいとこだった。
 夏儀さんは嘘も言わないが、気休めもまた言わない人なので、言っていることは例外なくこれから起きる事実なのだ。
 聞かされている方としては、何一つ笑えない。
 夏儀さんが、三和川たちのことをなぜ知っているのかは、聞こうとは思わない。いつものことだし、説明すること自体がきっと難しい。
「どうですか。宿木くん。久しぶりですけど、同居人の調子は?」
 夏儀さんは、ぼくの左腕を見ながら言った。
 一瞬、見られた左腕が反応したような気がしたが、確かめようとした時には、普段の状態に戻っていた。
「ええ。おかげさまで、何事もなく」
「そうですか。それはよかった」
 これにも夏儀さんは笑顔で答えた。
 けれど、それが作り物の笑顔であることは、ぼくは知っている。いつも教室で見る笑顔は、まったく同じものでありながら作り物ではないというのに、今、この時の表情は、仮面のように作り物めいているのだ。
「それで、夏儀さん……」
 ぼくが言いかけたところで、夏儀さんは既にぼくの方にその手を伸ばしていた。手には、一枚のメモ用紙が握られている。
 見るまでもなく、その中身には予想がついた。
「三和川ミナと、向居カンナの住所と電話番号です。二人は同じところに住んでいるので、住所は一つしか書いてありません」
 そう言って、夏儀さんはぼくにメモ用紙を手渡してきた。
 ぼくはその紙を、手を伸ばして受け取る。辺りは暗かったが、そこには確かに住所と電話番号が一つずつ書かれているのを読み取ることは出来た。
 あいかわらずの手際の良さだ。
 彼にできないことは何一つとしてない。
 過去も、未来も、現在も、思うが侭で、原始も結末も余すところなく知っている。
 彼は全知全能という四字熟語を体現した存在なのである。
 そんな夏儀さんがいつも行うことは、言ってしまえば物語の省略である。
 ぼく程度の情報手段でも、クラスメイト二人の住所と電話番号を知ることはたやすい。しかしそれを調べるのには、いくらかの時間を要する。逆を言えば、時間さえあれば難しいことではない。夏儀さんは、そんな手間の時間を省略してくれる。
 夏儀さんがなぜそんなことをしているのかは、ぼくも正直なところよく分かっていない。
 聞いた事はあるが、そのときは、早く先が見たいからですよ、とだけ夏儀さんは言っていた。未来も、結末も、オチさえも知っている人がそんなことを言う理由。そんなものはぼくには到底考えられるものではない。
 ぼくがメモ用紙の内容を確かめたのを見ると、夏儀さんは話を再開した。
「さて、すぐに動くのですか? 宿木くん、少々疲れているようにも見えますが」
「万全じゃないのはいつものことですよ。それに、時間をおいて好転する類のものではなさそうですから」
「君もまた手馴れてきたね。話し方がまるで歴戦の勇士のようだ」
 夏儀さんは、ぼくを褒めるようにそう言った。
 けれど夏儀さんのその言葉に、ぼくは嬉しさを覚えることはなかった。
 そうか。ぼくはいつの間にか慣れを感じていたらしい。
 こんな異常な出来事に対して。
 慣れることと、軽んずることは違う。
 この世界では、油断は即命取りなのだから。
 ぼくの思考を読みでもしたのか、夏儀さんがまた目を弓にしていた。
 そして、何の脈絡もなく、その一言を言った。
「――――『名は、体を表す』」
 それを言い終えると、夏儀さんはさよならの挨拶だけをして、踵を返し、夜闇の校舎に向けて歩いていった。黒青色のスーツは、すぐに闇に溶け込んで、見えなくなってしまった。
 今のがなんだったのかは、ぼくには訊かなくても分かる。
 あれは、事件の度に一度だけくれる、夏儀さんなりのアドバイスなのだ。
「名は、体を表す」
 一人になって、ぼくも一度その言葉を口にしてみた。
 その格言は、対象の名前は、対象の実態そのものを示す、という意味の言葉だ。
 名前は誰にでもあるものであり、だからこそそれは、そのものの生き方や在り方に深く関わっている。
 そういえばぼくの名前についても、以前に夏儀さんが言っていたことがあったのを思い出した。
 あれは、それこそ初対面の時、小さなぼくがその名前を言ったときだった。
「宿木くん。宿木都くん――か」
 夏儀さんは、何度か口の中で噛み締めるように、ぼくの名前を口にしてから、言ったのだ。
「宿木、やどりぎ……またの名を寄生木とも言う。そして都。これは人の集まる場所、所、という願いが込められている……」
 小さなぼくは、それはどういうことですか、と訊いた。
 そんなぼくの顔を楽しそうに眺めながら、話を結ぶ形で、こう言ったのだ。
「幸いだ、って事だよ。君はとても幸運なんだ。いや、君の場合はこれからか」
 少しだけ間をおいて、
 凪夏儀は、伍葵に住まう三眼の魔術師は言っていた。

 

「君はとてもついているのさ。そして憑かれやすいんだよ。憑かれた者たちは君を闇夜の灯火のように感じ、君の下の集まるだろう。宿木くん。君も一人の世界の中心なのさ」

 

 と。
 その頃のぼくは、夏儀さんの言った言葉の意味を、少しも理解できていなかった。
 今でさえ、ぼくはたぶんその半分も理解してはいないのだけれど。

 

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あー、よーするに
いろんな意味で「間隔があいて」いて、いろんな意味で「先生」なのか。
おたくもいろんな意味で“えらくなった”のねぇ。
いや、別にイヤミじゃござしませんのよ。
黒尾のおやじだよ URL 2006/12/12(Tue)17:24:08 編集
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