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作品をもっとよきものにするために、常に批評酷評アドバイスを求めております。作品の著作権は夢細工職人-ナギ×ナギにあります。
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――『”灰色”の物語』の再考です―― 

 カラスの灰色は、灰色のカラスである。

 

 灰色という名前は僕がつけたものだ。

 灰色は他のカラスに比べて、一羽だけ羽毛の黒が薄い。灰色なのだ。だから灰色だ。


 他のカラスとは文字通りに毛色の違う灰色は、いつも仲間からものけ者にされ一人で飛ぶ、孤独なカラスであった。

 灰色を初めて見たのは、学校の帰り道だった。

 寂れた公園。そのベンチの前で、落ちているクッキーのカケラを一つ一つ、クチバシでつついて食べていた。

 それ以来その公園で小学生の僕とカラスの灰色は何度も会った。

 時にはエサになるお菓子を持っていったこともある。カラスにエサをあげているなどおかしな子供だ、と周囲に言われたこともある。

 それでもその頃友達のいなかった僕にとって、いつも一人でいる灰色が、自分と似た境遇の、そして唯一の友達であるように感じられていた。

「ねー、灰色。おまえは一人ぼっちなのは寂しくないの?」

 と、訊いたことがある。

 そのとき灰色は、返事こそしなかったが、首を持ち上げて遠くの方を眺めていた。ずっと先の方の電信柱の周りには、たくさんのカラスがとまっていて、やっぱり灰色も仲間が欲しいんだな、と僕も思った。

 灰色はあの黒に憧れている。

 灰色は寂しがり屋のカラスだ。一匹狼にはなれない。だってカラスなのだから。

 

 それから一月か二月かが経って、季節も変わっていた。

 僕には相変わらず友達がおらず、灰色は相変わらず孤独なカラスであった。

 寂れた公園だった場所にビルが建ち始め、通り魔事件なんてものも起きたために僕と灰色は会うことのできる時間と場所をどんどん奪われていった。

 けれどもはや無二の親友となっていた灰色は、いつも僕の側にいてくれた。

 帰り道には電線の上から挨拶を。

 学校では教室の外から手を振るように翼を広げてくれた。

 

「カァー」

 その日の帰り道も、僕は灰色を見つけていた。

 姿は見えずとも聞きなれた灰色の鳴き声はすぐに分かる。

 鳴き声のする方に向うと、そこはあの寂れた公園があった場所だった。

 今はホロが張られた建築途中のビルがある場所の中から、灰色の声は聞えていた。

 ここの工事は最近に頓挫してしまったらしいので今は人気がない。ひっそりとした鉄の匂いのする場所で、灰色の鳴き声は聞えていた。

「カァーカァー」

 どうやら他のカラスはいないらしい。

 そして灰色は僕を呼んでいるようだ。

 僕は友達の呼び声に答え、鉄骨の隙間を抜けていく。

「カァー」

 果たしてそこには灰色がいた。

 そして鉄の匂いの元があった。

 それは血の匂い。

 乾いた血と肉の匂いだった。

 人気のない工事現場の、その奥に小さな死体が転がっていた。

 首を裂かれた小さな子供。

 土色だった地面は赤黒く染まっている。

 その小さな死体の前に、灰色は彫像のように静かにたたずんでいた。

 死体をよそに、まっすぐに僕を見据えている。

 灰色の瞳が言っている。

『これではない』と。

 そして灰色が大きくその羽を広げた。

 一際大きな声で鳴く。

『後ろだ!』と。

 灰色の意思に身体が勝手に反応して、僕は左に跳んだ。

 ほぼそれと同時のタイミングに、赤黒い何かが僕の顔の真横をかすめた。

 それはその勢いのまま地面に突き刺さった。

 それは斧であった。ビルの中の、緊急用に置かれているような赤い手斧。しかし今それは赤黒い。血の色に、黒かった。

 そして手斧を持った男が、獰猛な顔でこちらを睨んでいた。

 その目は獣であった。

 うなりながら斧を引き抜き、血走らせた瞳に僕を映している。

 通り魔事件。

 その言葉が一瞬頭をよぎった。

 男が斧をもう一度振り上げる。

 僕の頭をかち割るために。

「っ!?」

 幸運にも男の斧はそのリーチのために鉄骨にひっかかり、振り下されることはなかった。

 男がひるんだ瞬間、灰色が男の顔に体当たりをかけた。

 カァーカァー! と叫びながら、その全身で必死に男の顔面を叩き、爪で引っかいている。

 戦いながらも灰色は叫んでいる。

『今だ!』と。

 男がもう一度振りかぶった斧が、灰色に向けられる。

「うああああー!!」

 その斧が振りきられる前に、僕は男の腰に思い切り体当たりをかけた。

 攻撃のために崩れかけていたバランスが一気に崩壊し、男は思いきり後ろに倒れる。

 そしてそこにあった尖ったパイプが背中に突き刺さり、男の胸を貫通した。

 僕の身長ほどはあるそれは、男の身体を串刺しにしている。

 男の身体は昆虫採集の虫のような状態になった。

 僕は男から離れ、男はそのままもがきながら苦しんでいる。

 しかし死んではいない。

 けれど自分でそこから抜け出ることもできないでいる。

 男の胸から生えた赤黒いパイプ。

 その先端に灰色はとまる。

 とまって、僕を見下ろしている。

 男の荒い呼吸だけが響くこの場所で僕と灰色は見つめあい、意思を疎通させていた。

 僕の手にはいつからかあの手斧が握られている。

 灰色はパイプの上で僕を見つめる。

 男は苦痛と恐怖に歪んだ顔で交互に僕と灰色を見ている。

 僕は斧を持つ手に力を入れる。

「カァー」

 躊躇なく振り上げ、

「かぁー」

 力を込めて振り下ろす。

 横から振られた斧は男の首筋に深々と刺さった。

 そして傷口から噴水のように血が吹き出す。

 シャワーのようだ。

 男が絶命し、赤黒い血が灰色に降り注ぐ。

 灰色が染まっていく。

 赤く紅く血のように朱く。

 黒く暗く闇のように玄く。

「カァー」

 灰色は歓喜の声を上げている。

 灰色のカラスであった灰色は、今や暗い炎のように赤黒い。

 カラスと、死体と、斧と、僕。同じ色になった四つが並ぶ。

 もはや灰ではない灰色は笑う。

 願いをかなえた友人を見て、僕は幸せな気持ちになった。

 

 

 あれから数ヶ月が経った。

 羽毛の生え変わりの早い灰色は、また元の灰色のカラスに戻っていた。

「カァー」

 灰色の言葉は僕にだけ明確に伝わる。

「そろそろなんだね」

「カァー」

 僕の言葉は灰色にだけ明確に伝わる。

 あれから数ヶ月が経った。

 通り魔事件は、まだ解決していない。

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拝読しました
 おひさしぶり、です。Blueです。
 拝読しました。
 まだうまく声が出なくて、拙い感想になりますが、ご容赦ください。

 ストーリー、なかなかブラックで、良かったと思います。「僕」が斧を振り下ろすシーンは面白かったです。
 ただ、全体として見ると、半端な黒さというか。完全な黒になりきれていないというか。男を殺す段からの「僕」の狂気が描ききれていないように思います。「僕は幸せな気持ちになった」などは唐突な感じがしました。
 文章、冒頭と中盤以降で文体が違うのは臨場感を出すためなのでしょうが、どうも失敗している気がします。読者にとっては冒頭の文体がベースとなるので、中盤の緊迫した雰囲気が浮いて見えてしまいました。シリアス作品は特に、場のテンションはできるだけナチュラルに上げることを心がけた方がよいと思います。
 細かい文章的な弱さはいくつかあります(例えば前半、平仮名や片仮名の単語が連続している所に注意してみてください)が、全体的な文章力は向上していると思います。オリジナリティも、そろそろオリジナリティとして芽吹きそう、といったところでしょうか。

 ラノベ研式に言って+10点、です。核心的なところはちょっと面白かったです。でも犯罪心理は私も得意中の得意なので、ちょっと厳しい目で見てますです。
 ストーリーとしてまとめる事を意識したために、殺す→恍惚あたりがあっさりしすぎてしまったかもしれませんね。もう少し、全体を見るとよいです。でも元の作品からすると比べ物にならないくらい良くなってると思います。

 以上、頭の弱い感想批評で失礼いたしました。
 鍛錬室での怒涛の連続発表も、だいたい目を通してます。
 頑張ってください。
Blue 2006/10/21(Sat)21:17:13 編集
ありがとうございました!
Blueさんお久しぶりです。
初コメントまでしていただいて本当に感謝しています。

ふむふむ。少年のもつ狂気の描写にはたしかに書ききれていない感がありました。そして前半と後半での書き方の変化は始めての試みだったので、今後も改良していきたいと思っています。

ブルーさんに褒められるととても自信がつきます。けれどこの程度のことで慢心などせぬよう、これからも頑張っていきたいです! お世話になりました
ナギ×ナギ 2006/10/22(Sun)01:14:25 編集
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